羽尾 ただ、飛ばせば直ちに物流に使えるかと言うと、そう簡単ではありません。やはりまず物流事業として使うには、どんな天候でも対応できるか、という耐候性の問題があります。そして、現在の宅配では30kgといった重い荷物を扱っていますが、ドローンでこれらを確実に運べるか、という重量の問題があります。
また、実際に届けた後、荷物の受領確認をどうするかということもありますし、それから天候が悪い時は結局トラックで運ぶとなると結局二重投資になりますから、採算に合うのかといった課題も出てきます。さらに、人家の上を飛ぶことに国民の理解が得られるのかということもありますし、安全に離着陸させるドローンポートシステムの開発も必要です。
様々な課題があるので、我々も実験しているところですが、例えば千葉市や楽天など、実用実験を行なわれる関係者の取り組みの状況も把握しながら環境整備をしていきたいと思っています。
また、IOT、あるいは人工知能を使って、例えば、物流事業者の配送ルートや配送時刻の選択、倉庫内の保管場所の決定や要員の配置など、物流管理をもっと効率的にすべく、技術開発を進めたり、それを導入していくというのも物流の生産性向上のために大事です。さらにトラックドライバー不足に対応するために、自動運転機能や自動隊列走行などの活用の可能性もあります。
それらはすべて安全の確保がクリアされなければいけませんが、新しい物流の可能性を実現させる技術開発については、行政としても積極的に取り組んでいく方向です。
いずれにしても、物流の生産性を上げていくためには、まず一つは関係者の連携を進める、そしてもう一つは技術の革新をうまく取り組む。この2つが重要だと考えています。
「CLO」が日本の物流を変える
西村 最後に。羽尾さんのお話から、日本の物流事業者と荷主企業、物流業界が今後目指していくべき方向性というのがだいたい見えた気がしますが、そもそも、海外、例えばアメリカなど国土の問題から物流の効率化というのを考えざるを得ない国では、企業戦略の中で、物流が企業の成長力に関わるものとしてもっと重要な位置を占めていると思います。
それを証拠に、MBAのサブカリキュラムにもCLO、Chief Logistics Officerというコースがあります。これまで羽尾さんのお話にあった物流業界の変革を大胆に進めていくためにも、日本企業にCLOという概念が浸透して、高度に物流を考える人材が増えてくれば、生産性の向上や技術革新ももっと早く進むと思うのですが、物流の専門人材不足という点はどう考えますか。
羽尾 日本の物流業界も、さらに荷主企業における物流の位置づけも、まだその域には入っていないですね。例えば大手の物流業者であっても、採用する学生は大学で物流を学んでくる人はほとんどいないです。アメリカやヨーロッパはMBAのみならず物流を学ぶ場が多いのですが、そもそも日本ではそういう教育の場が基本的に限られています。
以前調べましたが、物流を専門的に学び、研究する学部や学科を設けている大学は、10大学もないんです。大抵、マーケティングや流通業、環境といった分野を学ぶ中で少し出てくる程度です。
物流業界に入ってくる学生ですらその状況ですから、企業の戦略として物流をきちっと見据えて取り組む人を育てるとか、そういう人材を社内で出世させ、経営幹部に入れるという発想をもっている荷主企業はまだまだ少ないですね。冒頭申したように、今までの企業は物流というのは基本的にコストの塊であって削ればいいという分野でしか見てなかったわけです。
しかし、ここを戦略的に取り組むことが自社の競争力を高める、競争優位になる、他者との競争に打ち勝つ源泉になる、そうした発想はこれから育ってくると思います。
西村 物流を活用することによって画期的に競争に勝てるとか、今まで弱かった地位を上げたとか、そういうモデルケースとなる企業が出てくることで変わってきますね。これほどまでに物流を取り巻く環境が変わってきているのですから、日本企業でもCLOという概念や人材を経営戦略に加え、CEOやCFOと共にCLOを据える重要性は今後、認識されていくべきだと思います。
今日はありがとうございました。
(撮影/和田佳久)