長引くコロナ禍中。寝ても疲れが取れない、ちょっとしたことでイライラする、自分だけが取り残されているように感じる……という人にぜひ読んでほしいのが、2021年4月に発売後、ネット書店、リアル書店で売り切れ続出、6万部を突破している『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著 藤田麗子訳)だ。TBS『王様のブランチ』でもBOOKランキング1位(文芸ランキングTOP10/2021年8月14日放送)になるなど、大変話題になっている。
読者からは「このタイトルは私そのもの」「すべての文章が刺さった」「大切な人にプレゼントしたい」と共感・絶賛の声が相次いでいる。
原著は韓国で2020年7月に発売。発売後5ヵ月で6万部を突破し、韓国の大手書店でもベストセラーランキング入り。「つらいときにひとりで読みたい」「低くなった自尊心を満たしたいときはこの本が役立つ」「誰が読んでも共感できる内容」と絶賛の声が数多く寄せられている。
精神科医の関谷秀子さんも
「この本は病院に行くほどではないが、日常生活で悩みを抱えている人、疲れ切っている人におすすめ」と言う。今回は関谷秀子さんに本書の中のテーマのひとつである、「がんばりすぎて無気力になる」という悩みについて聞いた。

自分で自分を傷つけている!? がんばりすぎて無気力になりやすい人の「思考のクセ」とは?Photo: Adobe Stock

「できない自分が不甲斐ない」

関谷秀子(Sekiya Hideko)
精神科医・法政大学現代福祉学部教授・博士(医学)
法政大学現代福祉学部教授・初台クリニック医師。前関東中央病院精神科部長。子どものこころ専門医、日本児童青年精神医学会認定医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医、日本精神分析学会認定精神療法医・スーパーバイザー。児童青年精神医学、精神分析的発達心理学を専門としている。児童思春期の精神科医療に長年従事しており、精神分析的精神療法、親ガイダンス、などを行っている。著書に『不登校、うつ状態、発達障害 思春期に心が折れた時親がすべきこと』(中公新書ラクレ)がある。

私は精神科医として外来診察を行っていますが、受診される方のなかには、いつも周囲に気を使っている人、元気そうに振る舞っている人、自分を犠牲にしている人、感情を出さない人など、一見さほど大きな悩みを抱えているように見えない(見せない)人も少なくありません。

こうした「大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをしてしまう人」の話を聞いてみると、今現在抱えている悩みが、子どものころから解決していない心の問題とつながっていることも多くあります。

A子さんは30代後半の会社員です。ある朝体がだるく、ベッドからどうしても起き上がれなくなってしまいました。数日間、会社を休んだものの、夜も眠れず、食欲もなくなり、どんどん気力がなくなっていきました。携帯を見るのも、シャワーを浴びるのも、食事をするのも億劫になり1日中ベッドの中で過ごすようになってしまいました。

上司に勧められて受診したA子さんはうつ状態に陥っていました。うつむきながら「自分がどうしてこうなったのか、何も思い当たることはないんです」と弱弱しく話します。

私が仕事について尋ねると、自分のノルマ以外にも、上司や同僚からの仕事を引き受けているため、朝早くから出社して夜遅くまで残業している様子です。

こういうケースだと、「どうやって仕事を断ればいいのか」という相談や、「私にばかり押しつけてきて許せない」と日頃抑えている感情を吐露する方が多いのですが、A子さんはそうではありませんでした。

「もう少しがんばらないといけないのに、こんな自分が不甲斐ない。昔から要領が悪くて、人より能力がないんです」と顔をくもらせます。

どうやら、A子さんが嫌な顔をせずに一生懸命業務をこなすため、上司や同僚は次々に仕事を頼み、A子さんはひとりではこなせないほど多くの仕事を抱えていることがわかりました。

A子さんは、「最近入社したばかりの中途入社の女性は上司にもしっかり意見を言い、仕事も速い。それに比べて私は……」と自分を責めます。A子さんはその女性と自分を比べて落ち込んでしまっているようでした。