5月7日にFRB(米連邦準備制度理事会)から発表された米銀大手19行に対する資産査定、いわゆるストレステストの結果には疑問点がめじろ押しだ。

 ストレステストとは、当局が厳しめの経済見通しを基に、今後の不良債権・資産からの損失発生額を試算し、資本の健全性を確保するために必要な資本調達額をはじき出したものだ。バンク・オブ・アメリカが339億ドル、シティグループが55億ドルなど19行合計の必要額は746億ドルとなった。

 市場は発表結果をおおむね好感したが、内容を詳細に見ると、いくつもの疑問が浮かび上がる。

 第一は、前提となる経済見通しだ。「厳しめ」のはずが看板倒れとなっている。2009年の失業率を8.9%としているが、4月の失業率はすでに8.9%。今後、たとえ景気が底を打ったとしても雇用削減は続くと見られているだけに、「この見通しは厳しいというより標準シナリオ」(藤岡宏明・大和証券SMBC金融市場調査部次長)でしかない。

 第二に、ローンなどの損失率見込みが過小だ。たとえばストレステストでは、サブプライムローンで21~28%の損失率を見込んでいる。だが、「現時点において、この水準での売却は難しい」(石原哲夫・みずほ証券シニアクレジットアナリスト)というのが関係者のコンセンサスだ。そもそもFRB自体がこの損失率について、「市場予想の中間」とコメントしている。

 第三は、「同種のローンの損失率について銀行によってばらつきがあること」(中川隆・大和証券SMBC金融市場調査部次長)だ。第一抵当権付き不動産融資で最低3.4%から最高11.9%とばらついている。保有している資産の質の違いがあるにせよ、同種のローンで3倍強の差があっては、銀行によって基準がバラバラとの懸念をぬぐえない。

 第四は、優先株を普通株に転換するだけで、必要資本を調達したと見なされていることだ。2月末に581億ドルの優先株を普通株へ転換する提案を発表したシティは、そのぶんだけ調達必要額が小さくなっている。優先株であれ、資本であることには変わりないことから考えれば、この見なし判断には疑問符が付く。

 今回のテストでは、JPモルガン・チェースなど資本調達の必要なしとされた銀行も9行あった。「財務面での銀行の序列が明らかになった点は意味がある」(中空麻奈・BNPパリバ証券クレジット調査部長)とは言える。

 しかし、銀行の資本不足の実態が明らかにされ、懸念が払拭されたとはとうてい言いがたい。

 景気低迷が続き不良債権が増大、“甘い”ストレステストの結果以上の資本調達を迫られる──。そんな銀行が続出する恐れは否定できない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)