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弁護士・永沢徹 企業乱世を読み解く

パナソニックの三洋電機買収が示した
「現金」買収時代の到来

――金融危機でM&Aの主役に躍り出たキャッシュ・リッチ企業たち

永沢 徹 [弁護士]
【第51回】 2008年11月14日
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 先週の金曜日(7日)、超大型の買収案件が発表された。みなさんもご存知の通り、パナソニックの三洋電機買収である。この買収が成功すれば、売上高11兆円にものぼる国内最大の電機メーカーが誕生する。

 パナソニックは、非常に財務内容の良い会社である。自己資本比率は50.3%と、日本の中でも圧倒的に高い。世界有数の優良企業といわれるトヨタでさえも自己資本比率は36.6%であり、パナソニックはそれを大きく上回っている。しかもその自己資本のかなりの部分が「現金」で占められているのである(自己資本3兆7000億円のうち、1兆2000億円が現預金)。

 今回パナソニックは、その潤沢な「現金」を元手に三洋電機を買収しようとしているのである。では、三洋電機の企業価値はいくらになるのか?厳密にいえば、「優先株」をすべて買収すれば、実質的に過半数の議決権を握ることができるので、この価値をどう見るかで大きく変わってくる。三洋電機の帳簿上の株主持分でいえば、3080億円。発行されている普通株の時価総額で見ても、3090億円。これに3000億円分(金融3社の投資額)の優先株式を加えるとしても、十分、「現金買収」ができる価格となっている。

 パナソニックが現金買収を行なう背景には、株価の大幅な下落がある。これまで事業会社による買収といえば合併や株式交換も多く用いられてきたが、新株を発行させるか自社株を差し出すかはともかくとして、従前の株主の価値を希薄化させることになり、現在の株安の状況下では、それは結果的に高くつくことになる。株安のため相手の株を安く手に入れることができる代わりに、自社の株も安く評価されてしまい、相対的に見ると安い買い物では済まなくなってしまう可能性が高いからだ。株安の今だからこそ、現金を潤沢に持つパナソニックにとって、「現金買収」するのが最も効率的ということなのである。

三洋電機の大株主である
金融3社の思惑は?

 三洋電機側にも事情があったようだ。同社の大株主である金融3社の思惑である。その3社とは、ゴールドマン・サックス、大和証券SMBC、三井住友銀行。投資額は、前述の通り合計3000億円。

 とくにゴールドマン・サックスと大和証券は優先株を大量に保有している。彼らは投資銀行であり、今回の金融危機の流れもあって、できるだけ優先株を高く買ってくれる相手(出口)を探していたと思われる。一方、三井住友銀行は、優先株を若干持ってはいるものの、融資を主体としたメインバンクの立場にある。自己資本比率が18%しかない三洋電機が、自己資本比率50%を超えるパナソニックの傘下に入ることで三洋電機の企業価値を上げ、融資の回収可能性を高めたいとの思惑がある。

 このように、投資銀行とメインバンクという立場や利害は異なりながらも、彼ら大株主3社の思惑が、今回のパナソニックによる買収へと大きく働いたといえるだろう。

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永沢 徹 [弁護士]

1959年栃木県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験合格。卒業後の84年、弁護士登録。95年、永沢法律事務所(現永沢総合法律事務所)を設立。M&Aのエキスパートとして数多くの案件に関わる。著書は「大買収時代」(光文社)など多数。永沢総合法律事務所ホームページ


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