コロナ禍で売上が激減し、資金なし、業界のコネなし、従業員ゼロ……。廃業寸前の老舗和菓子屋の4代目に専業主婦が就任、そこからわずか3年で売上が10倍になったとしたら、信じますか? 名古屋銘菓「鯱もなか」消滅の危機から奇跡の復活まで――。元祖鯱もなか本店 専務取締役である古田憲司氏が、経営難の時期に行った復活への布石「5つの事前準備」を紹介します。
描いたイメージ実現のためにできること
4代目社長に就任した妻や、従業員たちの気持ちを盛り上げながら、いつか必ず「鯱もなか」が注目される日が来ることを信じて、さまざまな準備を進めました。
じつは、元祖鯱もなか本店の復活劇において、感謝してもしきれないほどお世話になったキーパーソンが5人います。そのうちの1人が、Instagramをはじめ「鯱もなか」の広報業務を手伝ってくれている“しなのさん”という女性です。
しなのさんとの出会いは2021年の4月ごろ、僕が運用していたTwitterの不動産アカウントの投稿にコメントをもらったことがきっかけでした。
いろいろと話を聞いてみるとさまざまな企業のアシスタント業務をしており、広報業務にも興味があるとのこと。彼女なら、これから「鯱もなか」が仕掛けていくPR活動の力になってくれるに違いない! そう確信し、広報スタッフとして仲間に加わってもらうことにしたのです。
こうして会社員時代にマーケティングを学んだ僕と、企業のサポート経験が豊富なしなのさん、デザイン面の知識と経験がある妻の3人体制で、バズ(SNSなどを介して、消費者のクチコミによって話題となり注目が集まること)がいつ起こってもいいように、販売プロセスについて綿密に設計していきました。
ただ商品が売れるようにするだけではなく、バズという消費者の拡散力をもって「鯱もなか」の名を一気に広めていくことを目標に掲げたのです。
事前準備1 売上の礎となるECサイト構築
はじめにテコ入れしたのが、オンライン販売の強化です。
先代の頃から公式サイトは存在しており、申し訳程度に通販で商品を購入できるようにはなっていました。しかし、古びたデザインや、購入ページまでなかなかたどり着けない導線のわかりにくさなどが目立ち、お世辞にも購買意欲が掻き立てられるようなつくりとは言えませんでした。
そもそも元祖鯱もなか本店の売上の7割は駅や空港などの「お土産需要」であり、残りの3割はほぼ大須にある本店での販売分。ネット通販の売上はほとんどありませんでした。裏を返せば、一番の伸びしろはオンライン販売だということです。
じつは、老舗企業や店舗の多くは、まだまだECサイトが整っていないのが現状です。そこで、知人に紹介してもらった専門会社に依頼して公式サイトのリニューアルを行い、インターネット上で簡単に購入できるシステムを整えました。
まずはサイトの訪問者に、「感じのいいページだな」と思ってもらい、長い時間滞在してもらえるようにしなければなりません。