5月20日、1930年代以来の大改革ともいわれる米国の金融改革法案が上院で可決された。むろん、金融危機の震源地であっただけに、規制強化は避けられないのも事実。だが、これまでの議論の経緯や規制の中身を見ていくと、この改革案が、米議会に交錯する思惑に振り回されてきた危うさが浮き彫りになる。

 民主党、ひいてはオバマ政権には時間がなかった。それが米金融界にとって不運の始まりだった。

 5月5日、世界を奈落の底に突き落とした金融危機の再発を防ごうと、金融機関に対する規制を強化する金融改革法案の審議が米上院本会議でスタートした。

 3月には上院銀行委員会でも、委員長個人による修正案まで出して可決を取り付けるなど、まさに綱渡り。それだけに、与党民主党が安定多数を割っている本会議での議論は、もめにもめた。

 そもそも審議入り自体も、野党の共和党が反対し、3日遅れた。さらに、日本以上に利益誘導色が強い米国の議員たちは地元の有権者の支持を取り付けようと、民主、共和両党が入り乱れ、次から次に修正項目を提案。その数は2週間で400以上にも及んだ。

 なかには、「ロブスター業界に勤める人が住宅ローンを申請する際に融資条件を優遇する」などという、およそ金融危機とは関係のない修正項目まで飛び出す始末。提出したのは漁業が盛んなメーン州の議員だが、なんと通常の投票は実施せず、声による賛否で決する「発声投票」なるもので可決されるというありさまだった。

 こんな調子だから当然、審議はいっこうに進まない。しびれを切らした民主党側は、19日になって審議打ち切りの採決を提案するも否決。それでも諦めず、翌20日に再提案してようやく可決となり、法案の採決にこぎ着けた。

 結果は賛成59に対して反対39。「1930年代以来の大改革」と呼ばれた金融改革の上院法案は、こうした大混乱のすえ、どうにか可決に至ったのだった。

 それゆえ、規制を受ける金融界からさえ「中身がまだよくわからず、影響も未知数」(関係者)と不安の声が上がっている。「金融の安定化」に加え、金融機関の「規模」「業務内容制限」「健全性の確保」「報酬制度」「監督機関」という規制の大枠は決まったものの、あまた出された修正項目の行方が不透明だからだ。

 しかも、盛り込まれたもののなかに、いくつか金融機関の経営を根底から揺るがしかねない内容が含まれていたから、金融界の不安は決して小さくなかった。