南アフリカから世界に発信される「百威」

 2010 FIFAワールドカップ南アフリカ大会が6月11日開幕した。サッカー好きならずともテレビに釘付けの眠れぬ日々がまた4年ぶりにやってきた。

 ただ、今回はテレビ観戦中に、ボールの行方を追う前に、私の目線はほかのものに奪われてしまった。

 ご存じのように、世界中から注目されるこうした大規模な国際試合では、競技場での広告は欠かせない存在である。今回の広告は電子掲示板になっており、スポンサーの数もかなり増えたようだ。競技場内のほとんどの広告がアルファベットで社名または商品名をアピールしているなか、一社だけが同時に商品名の漢字も出していた。バドワイザーを生産する米国のビールメーカー、アンハイザー・ブッシュだ。「Budweiser」というアルファベットの商品名の横に「百威」という中国語ネーミングも大きく表示している。

 これはバドワイザーが今回のW杯で試みた初めての挑戦ではない。4年前のW杯ドイツ大会でもすでにこのような広告作戦を敢行した。最初、テレビの画面の隅っこに「百威」という2文字だけが映っていたので、まさかとびっくりした。目を凝らしてテレビカメラのレンズがこの広告を捕らえる瞬間を辛抱強く待った。すると、きれいに見えた。アルファベット表示もあるが、その横に「百威」という漢字表現を併記している。その広告作戦に感心した。

 一人当たりのビール消費量は決して多くない中国だが、2002年から中国は国全体のビール製造量も消費量もアメリカを抜いて世界1位になっている。だから、W杯ドイツ大会での広告作戦は、バドワイザーが国別のビール消費量、一人当たりビール消費量ともに世界3位を誇るドイツの市場に殴り込みをかける絶好の機会ととらえただけでなく、同時にテレビブラウン管の向こうにいる13億人の巨大中国市場にも狙いをつけていたのだ。だから、ヨーロッパで行われているサッカー試合なのに、あえて中国語ネーミングを前面に出した。

 当時、ドイツのライバルメーカーは地元ビールを販売したい一心で動いていたのに対し、遥かなヨーロッパから「百威」という中国語ネーミングを使って中国市場にアピールしたバドワイザーは、世界的なマーケティング意識と企業戦略において一枚も二枚も上手だった。

 この広告作戦は今度のW杯でも踏襲された。ドイツよりさらに遠い南アフリカから愛をこめて中国市場にビジネスメッセージをしたたかに送り続けるバドワイザーには感心してしまう。その広告作戦の裏に綿密なマーケティング計算としたたかなビジネス意図があると感じる。