世界投資へのパスポート
【第430回】 2016年8月8日公開(2016年8月14日更新)
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「世界投資へのパスポート」

著者・コラム紹介

世界投資へのパスポート

広瀬隆雄 ひろせ・たかお
三洋証券、S.G.ウォーバーグ証券(現UBS証券)、ハンブレクト&クィスト証券(現J.P.モルガン証券)を経て、2003年、投資顧問会社・コンテクスチュアル・インベストメンツLLCを設立。長年、外国株式関連業務に携わっており、特にBRICsをはじめとした新興国市場に詳しい。米国カリフォルニア州在住。

広瀬 隆雄

好調だった米雇用統計の裏に隠れているものとは?
FRBが堅持している超緩和的金利政策の功罪、
今後の債券と株式市場の見通しについて解説!

良い数字だった雇用統計
強い雇用統計は何を意味しているのか?

 先週金曜日に発表された非農業部門雇用者数は予想+18万人に対し、+25.5万人という良い数字でした。

 平均時給は+8セントと強かったです。これは前年同月比+2.6%です。

 鉱業を除けば、労働省労働統計局の分類によるアメリカのすべての産業で、雇用は拡大しているのです。

 欧州やアジア諸国の経済がモタモタする中、アメリカ経済がこのように好調なことは、たいへん心強いです。

 リーマンショック直後に、いちはやく大胆な緩和政策を取り、その後も一貫して景気支援のために超緩和的政策をとってきた連邦準備制度理事会(FRB)の采配が正しかったことが、結果に表れていると言えるでしょう。

 私は、リーマンショック以降のFRBの采配を高く評価していますし、バーナンキ前議長やイエレン議長のやっていることをこれまで疑ったことはありませんでした。

 しかし……

これまでやってきたことが正しかったということと、「だから当分、このままでいい」ということは必ずしも同じではありません。

 いや、ここからは現在、FRBが堅持している超緩和的金利政策を、維持すれば維持するほど、長期的にみてアメリカ経済にとってマイナスに働くし、資本破壊的な副作用を伴ってくると思います。

 もっと言えば、FRBは直ちに利上げすることで「パンチボウルを下げる」方がいいのです。

現行の0.50%というフェデラルファンズ・レートを維持し続けるということは、もはや深慮ある選択ではなく、無責任と紙一重のところまで来ていると感じます。

「悪乗り」的融資が横行し始めたが
イエレン議長からは緊張感が伝わってこない

 アメリカで屈指のクレジットカード部門を持っているJPモルガン(ティッカーシンボル:JPM)は、第2四半期決算発表のカンファレンスコールの中で、次のようにコメントしました。

“クレジットカード部門では比較的新しいカード顧客の引当が増加した。また自動車ローンでは競争の激化から貸し手がリスクを多く取り始めており、その分、焦げ付きも増えている。その関係でわが行の損金計上も増えた。”

 これまでJPモルガンは一貫して「米国の消費者のふところ具合は良いし、貸付内容もしっかりしている」という見解を堅持してきました。しかし超低金利に便乗するかたちでキケンな自動車ローンが増えており、過当競争の様相を呈しているのです。

 この点は、JPモルガンだけでなく、ウエルズファーゴなども指摘しています。つまり日頃から消費者と向き合っているメガバンクの経営者は、誰もが(ちょっと危ないな)と感じ始めているということです。

 この危機感を、ジャネット・イエレンとFRBのメンバーが共有しているか? というと……あまり緊張感は伝わって来ません。

 もっと言えば、FRBのやっていることは、居眠り運転に近いということです。

原油価格の低迷もインフレ率が低い一因、
正常なフェデラルファンズ・レートとは?

 下は米国の政策金利であるフェデラルファンズ・レートのチャートです。

 2008年のリーマンショック以降、「ゼロ金利」に限りなく近い政策金利が、ずっと取られていることがわかります。

 ちなみにFRBは長期での「巡航速度」でのインフレ率は2%、フェデラルファンズ・レートは3.5%と考えてきました。

 しかし最近は世界的に不景気が長引いているので、「ニュー・ノーマル」、つまり「低成長や低インフレが常態化した」という意見に押されています。

 実は、こんにちのように「インフレは、未来永劫に渡って、低いままだろう」という考え方が蔓延した時期が、アメリカにありました。それは1960年代です。

 当時はFRBの独立性が今ほど確立されていなかったので、ジョンFケネディ、リンドン・ジョンソン、リチャード・ニクソンという歴代の大統領は、それぞれFRBに対して「政策金利を、低く保つように!」という圧力をかけました。

 中央銀行の金利政策は、長い時間をかけて、累積的に効いてくるものです。低金利政策が続けられた結果、インフレ圧力が知らぬ間に貯め込まれました。その結果、1970年代は、とんでもないインフレにアメリカが翻弄されたのです。

 現在のインフレ率が低い一因は、原油価格が低迷していることによります。原油価格が低迷しているのは、不景気だからではなく、シェール革命で原油の供給が増えたからです。しかし、現在、シェール・オイルのリグは不採算になっているので続々と休止しています。それは将来、原油の供給が減ることを示唆しています。

 つまり消費者物価指数の足を引っ張っている要因は、だんだん消えるということです。

賃上げは人気業種にまで広がっている
賃金インフレは始まるとクセになりやすい

 一方で、冒頭で見たように、アメリカの平均時給は前年比+2.6%で上昇しはじめています。

 去年はウォルマート(ティッカーシンボル:WMT)マクドナルド(ティッカーシンボル:MCD)などが、とりわけ低賃金雇用者の賃金を引き上げることが相次ぎました。

 ところが最近は、人気のバイト先であるスターバックス(ティッカーシンボル:SBUX)やJPモルガンの窓口担当者まで賃上げが広がっているのです。

 普通、FRBは賃金の動向にはひときわ注意を払います。なぜなら賃金インフレは、一度はじまるとクセになりやすいからです。

 その賃金インフレは、すでに+2.6%と、FRBのターゲットの+2%を超える水準に来ているわけですから、いまは慌てて政策金利も引き上げはじめなければいけない局面でしょう。

 最近、「債券の王様」のニックネームを持つビル・グロスが「債券も、株も魅力ナシ!」と弱気な発言をしています。カリスマ投資家、ジェフリー・ガントラックも「すべて売れ!(Sell everything!)」と警鐘を発しています。

 私も、今、FRBがやっていることは無責任と紙一重で、株にとっても債券にとっても試練の時が近づいていると思います。

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