過去の不況下では停滞してきた海外進出計画。しかし、今回の局面では、むしろ海外進出する企業が増加している。特に中国や「チャイナプラスワン」としてかつて注目を集めた東南アジア諸国において、その傾向が顕著だ。なぜ、不況でも企業は海外進出を止めないのだろうか。企業のアジア進出を数多くサポートしてきたみずほ銀行・国際営業部国際アドバイザリーチーム加藤修次長に、その理由と海外で生き残る秘訣について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林 恭子)

海外進出の目的は生産から販売にシフト
国内市場への落胆が企業の背中を押す

――この10年ほどの間に、グローバル化の進展や低コスト化を目的に、中国などのアジア諸国に進出する企業が激増した。そんな中で起きた今回の世界的な経済危機は、日本企業のアジア戦略にどのような影響を与えているのだろうか?

 これまで日本は、大きな景気後退を何度も経験してきた。1990年代後半にはアジア通貨危機、2001年にはITバブルの崩壊などがあった。その後も、大きなものではないにせよ、今回の不況までの間に、「9.11」「SARS」「反日デモ」など、数々の経済不安も経験している。

 そうした危機が起こる度に企業が必ず行なってきたのが、拠点の再編を行なうリストラクチュアリングだ。各企業の生産拠点や中継拠点はその都度見直され、完全撤退するケースも珍しくなかった。特に中継拠点である香港やシンガポールで、それは顕著だった。「コストがかかる中継拠点はいらない」「工場から北米や日本へダイレクトに輸送すればいいのではないか」と、削減対象にされやすかった。

 ところが、今回の不況では今までと様子が異なっている。なんと、海外進出案件は減っていない。直近の統計がまだないため、案件全体の数は正確にわからないが、顕著に増えてきたのは09年6月からだ。これまで不況期に多かった「完全撤退」は全く見られない。お蔭様で、こんな不況でも我々が行なっている海外進出や事業再編サポートの仕事には、全く影響がなかった。