
世界の海運の要所、パナマ運河。米国のトランプ大統領は就任前から何回も、「パナマ運河をパナマから取り返す」と発言していた。かつてパナマ運河は米国が支配していたが、1999年にパナマ共和国に返還されたという歴史があるからだ。さらに、パナマ運河の両端に位置する2つの港を香港企業が持っているため、トランプ大統領は就任演説で「中国企業がパナマ運河を運営している。我々はこれを取り返す」と宣言、この2港を含む世界23カ国43港湾の運営権を米国企業が買収するという合意を取り付けた。これを受けて中国政府は、事業を売却した香港企業を激しく批判している。トランプ大統領、中国政府、香港企業……最後に笑うのは誰になるのか?(フリーランスライター ふるまいよしこ)
「破壊者」トランプ大統領がもたらした衝撃
「ディスラプター」、つまり制度や伝統の破壊者という意味の言葉そのものの存在となったトランプ大統領。2月末のホワイトハウスでメディアを前にした衝撃的なゼレンスキー・ウクライナ大統領との鉱物採掘協定交渉決裂が世界に与えたショックも冷めやらないうちに、またも「トランプ効果」を印象付ける発表が行われた。
米国貿易の命脈、パナマ運河の2つの港湾を運営していた、香港拠点の長江和記グループ(CKハチソン・ホールディングス、以下「長和グループ」)が3月4日、同グループが所有する両港湾を含む世界23カ国43港湾199バースの運営権を、米国の資産運用会社「ブラックロック」を中心とした企業連合「ブラックロック-TiL」に約228億米ドルで売却することで基本合意したと発表したのである。売却は同グループが運営する世界的な港湾事業から中国と香港の港湾運営事業を除いた80%に及ぶ。
支払いは現金で行われる予定で、正式に売却が完了するのは今年末と見られるが、長和グループは最終的にさまざまな費用を差し引いたうえで約190億米ドルの収益を得ることになるという。その額、規模ともに香港随一のコングロマリットである長和グループにとっても過去最大の売買収案件で、同時に同グループはほぼ港湾事業から撤退することになると言われている。