
純米大吟醸の日本酒「獺祭」を世界的なブランドに育てあげた旭酒造。今年は、人類初の「宇宙で仕込みを行う日本酒」に着手する。100mlを1本の瓶に詰めて希望小売価格1億円で販売する発想力は、どこから来るのか。企画・営業の神髄とリーダーの心構えを、桜井博志会長に語ってもらった。(旭酒造代表取締役会長 桜井博志、構成/石井謙一郎)【インタビュー連載全4回の第4回】
全て調整して相談しながら決めるのは
本当のリーダーシップではない
おかげさまで、宇宙空間での酒造り「獺祭MOON」が話題になっています。2025年後半に、種子島から打ち上げるロケットで国際宇宙ステーション「きぼう」の日本実験棟へ酒米や水などの材料を運び、宇宙飛行士が仕込みを行なったのち、発酵させた醪(もろみ)を持ち帰って清酒にする。三菱重工と共同で進めている、人類初の試みです。
2040年代に人類が月面に移住した場合、お酒は生活に彩りを与える存在になるはずです。月に酒蔵を建てる目標に向けて、地球の6分の1しかない月面の重力を「きぼう」の中に設定し、酒ができるか試してみようというのが、この実証実験です。
持ち帰った醪から造れるお酒は、200ml。半分を分析に回し、残った100mlを1本の瓶に詰めて、希望小売価格1億円で販売するつもりです。計画全体に1億4000万円かかりますが、売り上げは日本の宇宙開発事業に寄付する予定ですから、投資の回収さえできません。
社内で「その資金を他に充てたほうがいいのでは」といった反対意見はなかったのか、とよく聞かれます。しかし、日本にちょっとでも明るい話題を提供できるなら、いいじゃないですか。こんなときは、全員の意見を聞いていたら、まとまりません。特に、管理職や賢そうな人たちの意見を聞くほど、実現は遠のきます。本当に必要な場面では、責任感のあるリーダーによるトップダウンが欠かせないんです。
私は、全て調整して相談しながら決めるのは、本当のリーダーシップではないと思っています。「たまたま順番が回って来たので、私が社長を担当しております」みたいなリーダーの会社では、将来が不安でしょう。
