ここで問われたのが、UFHD及びさが美の取締役の対応だ。一般論としてUFHDの取締役は、会社法330条、民法644条に定める善管注意義務を負っている。今般のNH-2の提案は、AG2案に比べ、株式買付価格において60%も高いものであり、仮にNH-2からの提案を断る場合にはその善管注意義務に即して妥当なのかという問題が生じる。

 同じことは、NHCが2015年12月に提案した案を採用しなかったことの是非にも当てはまる。NH-2案を拒絶する場合には、それを正当化するだけの公正妥当な理由が必要だ。特にAG2の提案は時価(3~6ヵ月平均株価)を大きく下回るものである一方、NH-2案は当該時価以上の提案であることにも留意が必要だ。

 また、さが美の取締役は、同社株主利益・企業価値の最大化を図るべき義務を負っており、もしNH-2案がAG2案よりさが美の企業価値をより増大させるのであれば、先行して行われている公開買付けの賛成意見を撤回し、反対意見を表明しなければ、取締役は善管注意義務違反に問われることになる。

 ところが、さが美の取締役にしてみれば、56円という非常に低い株価でAG2が株式を買い付けてくれれば、自己保身のためには有難い面がある。なぜならば、支配株主となるAG2の株式の持ち値が低いということは、今後支配株主たるAG2から取締役会に対する収益やガバナンス改善などについてのプレッシャーが非常に低くなるからだ。

 これに対し、NH-2の提案は、実務上時価と見做せる3~6ヵ月平均株価を上回る90円という水準であり、NH-2案を採用した場合はNH-2が取締役会に企業価値の向上を求めることが必須になるので、一般株主にとってもメリットがあることは自明だ。AG2案を採用することは、当然、経営陣と少数一般株主との間の利益相反である。連載第55回冒頭で示したTOBに係る利益相反の例示は、敵対的買収の場合ではあるが、今回の事例と酷似している。

 まさにこの利益相反を防ぎ、少数株主を保護するために、CGCには、「上場会社の取締役・監査役及び経営陣は、それぞれの株主に対する受託者責任を認識し、ステークホルダーと適切な協働を確保しつつ、会社や株主共同の利益のために行動すべきである」(原則4-5)と定められており、また、その独立社外取締役には、「会社と経営陣・支配株主等との利益相反を監督すること」「経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること」(原則4-7)と定められている。

 ところが、驚くべきことに、さが美には、そもそもその独立社外取締役自体が存在しないのだ。

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「仏作って魂入れず」の状態

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