池尾和人教授は、金融庁と東京証券取引所を共同事務局とする「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」の座長として、今年3月に「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方 コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために」をまとめた。「コーポレートガバナンスは経営者を過度の結果責任の追及から守ってくれるもの。経営者を縛る枷(かせ)ではありません」と訴える池尾氏に、「日本のコーポレートガバナンス・コード」に込めた理念について聞いた。
「攻め」のコーポレートガバナンスで
健全な企業家精神を支える
1953年、京都市生まれ。京大経済学部卒。京大経済学博士。岡山大助教授、京大助教授、慶大助教授などを経て、95年より慶大経済学部教授。2000年9月から03年3月まで日本債券信用銀行(01年にあおぞら銀行に改称)の取締役、03年4月から07年9月まで日本郵政公社理事を歴任。現在は、東京商品取引所の社外取締役を兼務している。
――2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」では、「鍵となる施策」の最初の「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」で、生産性の向上に次いで「コーポレートガバナンスの強化」が挙げられています。
池尾(以下略):日本企業のROE(株主資本利益率)は国際的に低いだけでなく、神戸大学の三品和広教授らが指摘するように、高度成長期以降、下降トレンドをたどっています。稼ぐ力を取り戻すために巻き返しが必要だ、という政府の戦略は、正しい問題意識に基づいていると言えます。日本企業の資本効率改善には、さまざまな対策が考えられますが、コーポレートガバナンスの整備は、その重要な柱の1つになると思います。
――まとめられたコーポレートガバナンス・コードは、企業経営にどのように資するのでしょうか。
これまで、コーポレートガバナンスに対する議論は、粉飾決算など企業不祥事が起きるたびに盛り上がってきました。そのため企業は、不祥事を起こして世間からバッシングを受けることのないようにしようという「守りの観点」から、ガバナンスを考えてきました。
もちろん、コンプライアンスは大切ですが、今回のコーポレートガバナンス・コード策定の主目的は、不祥事の防止ではありません。経営者が、しっかりした経営を行うための基盤として、モニタリングなどの体制を整えることに主眼を置いています。ここで言うモニタリングは、見張りや監視ではなく、「後見」という意味合いで捉えていただくべきものと考えています。