そして、もとより本件は、両社の取締役会に対し、友好的にAG2案への対案を提示したものなので、NH-2は、UFHD及びさが美の協力に基づきこれら契約書が締結されることを前提に、資金調達をはじめとする諸準備を順調に進めてきていたのであり、当局に申請する準備も万全に調っていたのであるから、TOBが実施できなかったことについてNH-2側になんら瑕疵はない。もとよりAG2も両社の同意を前提に提案していたものであり、条件は同じだ。

 もちろん、NH-2が取締役会の同意なく、一方的に敵対的TOBを掛けることは理論的には可能であろうが、本件取引は債権譲渡とセットの取引であるので実務上不可能であるし、それはPEファンドとしてのNHCのポリシーに反する。

 また、「さが美の経営陣との間に十分な信頼関係がない」というのは、明らかな虚偽記載だ。NHCは、数多くの事業再生の実績に加え、前身の投資会社において和装卸の市田株式会社を支援した貴重な経験が評価され、2007年頃からさが美の再生計画案について経営陣らとの意見交換を継続しており、特に、2015 年7 月にさが美の経営陣に対して、また同年12 月にはUFHDに対して、黒字化と財政基盤強化を早期に実現するための事業構造改革計画案と、そのために必要な資金を賄うための増資、及び、UFHDが持つさが美株式の一定割合までの買い取りを提案している。

 このとき提案したいくつかの施策は、従来からさが美の経営陣と緊密に話し合いを重ねていたことを踏まえた現実的なものであったため、さが美が2016 年3 月に『事業構造改革の実施について』で開示した再生案にも反映されており、実行されたものだ。また、当時の提案が、株式買取価格については75 円~100 円、債権放棄は求めないという条件であったこと、すなわちAG2の提案よりはるかに優れていたことも先述の通りだ。

 余談ながら、NHC及びNH-2の代表である筆者は、人生の先輩であるさが美の社長とも長年親しくお付き合いを戴いており、プライベートでも着物の購入についての諸アドバイスを頂いていたほか、同社長が日本取締役協会に入会する際の推薦人でもあるくらいだ。

 皮肉なことに、日本取締役協会は、日本のコーポレートガバナンスの改善を目指す経営者の集まりであり、コーポレートガバナンス・コードの策定に当たっても当局宛てに重要な提言をしてきた経済団体だ。

 今回の事案を巡るUFHD及びさが美の対応は、海外投資家から見て、日本の企業統治改革が、「仏作って魂入れず」に陥っているのではないかとの疑念を抱かせるに十分な事例となった。10月7日付英フィナンシャル・タイムズ紙は、識者のコメントとして、「さが美の事例は小さいが、CGCとSCに基づく多数の論点に波紋を投げかけている。経営陣と株主が真面目に取り組むか、リップサービスに過ぎないのかが問われている」と結んでいる。

 NH-2は、コーポレートガバナンス・コードを制定した東京証券取引所に対し、UFHD、および、さが美に対する制裁措置の発動を求める要望書を提出したが、現在まで東証も見て見ぬふりを決め込んでいる。

 2016年10月11日は、「日本のコーポレートガバナンスが死んだ日」として記憶されることになるのだろうか。今後SCに署名している機関投資家や、一般株主がどのように対応するのかが注目される。

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