金をかけただけの効果が
退職金制度にあるか社長は自問せよ

 実は退職金・企業年金制度にかけているお金は給与の約10%にもなります(日本経団連「福利厚生費調査」による)。この調査によれば現金給与等の支払いにつき56.4万円払っている場合、退職金等の費用に別途月5.5万円かかっているそうです。

 給与額だけを見て、会社の総額人件費の全部を見たつもりになっている経営者がいますが、これは大間違いです。まず法定福利費、つまり厚生年金保険料や健康保険料の会社負担額という大きな負担があり、これを足すと人件費は15%も跳ね上がります。そして、社員が辞めたときに払うことになる退職金コストも、人件費として給与の約10%がかかる、と社長は意識しておく必要があるのです。

 特に、「今はほとんど定年退職者がいないが、50代の社員が3割以上を占めている」といった会社の場合、今は支払いコストを実感していませんが、何年かあとに、いきなり退職金支払いコストが爆発することもあります。

 そのとき膨大な支払い費用に困って銀行に相談をしても、銀行はおそらくお金を貸すことを渋るはずです。定年退職者に渡して右から左へ消えていくであろうお金を貸しても、会社の売り上げを1円も増やしてはくれないからです。

 退職金、企業年金に関係する今かかるコスト、そして、これからかかるであろうコストを認識し、それが会社にとって意義あるものか社長は自問自答してみる必要があります。もし、少しでも疑念があれば、それは制度を見直すべき理由がある、ということなのです。

退職金は社員への福利厚生だという
大きな勘違いを捨てる

 社長さんの多くが抱いている大きな勘違いのひとつとして「退職金は福利厚生制度」と思い込んでいます。しかし、退職金・企業年金制度は福利厚生制度(法定外福利)ではありません。

 そもそも福利厚生制度(法定外福利費)とは、死亡弔慰金や社員旅行の費用、保養所の利用費用などが該当するものです。

 これらは、給与とは別に存在し、社員の生活をサポートし喜んでもらうための費用です。

 義務ではありませんから、景気悪化の折には中断することもできます。「今年は赤字転落のためディズニーランドのフリーパス配布はありません」と社長名でメールをすればいいわけです。筆者に言わせると「いつでも削れるもの」が福利厚生費です。

 しかし退職金や企業年金はそういうわけにはいきません。これは「削ってはいけないもの」です。
 この費用は賃金の一部を後払いをしている性格があり、支払いの約束は債務とみなされています。上場企業ではこの債務の膨張が株価を左右することもあるほどです(退職給付債務)。手元にお金がないから払わない、は許されません。退職金を支払うことは福利厚生ではなく、会社の義務なのです。