高齢者が社会保障を求めて
「小さな政府」を望むパラドックス

 そもそも政府の役割に関しては、共和党と高齢者は同床異夢の関係にあった。

 10年前後から共和党で盛んになったティー・パーティー運動では、過激に小さな政府を求める主張に、高齢者が賛同していたかのような構図があった。公的医療保険の拡大を目指すバラク・オバマ政権の医療保険制度改革(オバマケア)に対し、高齢者からも反対の声があがっていたからだ。

 また、世論調査などでも、米国の高齢者のあいだでは、社会保障制度の拡大に否定的な見解が強まっている。これだけを見れば、高齢者は「小さな政府」を求めているようにも受け止められる。

 もっとも、高齢者が反対しているのは社会保障制度の「拡大」であって、その「削減」までをも求めているとは限らない。むしろ米国の高齢者が懸念するのは、社会保障制度の「拡大」によって、自らが受けている恩恵が削られてしまうことである。

 高齢者が社会保障制度の拡大に反感を強めているのは、先進国の中でも米国だけに見られる特異な現象だ。その背景には、高齢者に厚い公的医療保険制度を持つ米国の特性が指摘されている。国民皆保険制を採用してこなかった米国だが、高齢者には専用の公的医療保険制度(メディケア)があった。

 そのため米国の高齢者は、他の先進国にもまして、社会保障制度の既得権者としての性格が強い。実際に、65歳以上の家計では、所得に占める移転所得の割合が4割強と、65歳未満の家計の約5倍の水準となっている。

 つまり、米国の高齢者は、「大きな政府」に近づくことで若年層等に対する施策を増やし、その代わりに自分たちの社会保障が減らされることを恐れている。実際、50歳以上を対象とした世論調査では、7割近くが「高齢者向けの施策は不十分である」と回答している。その一方で、若年層向けの施策については、「不十分である」とする回答は4割強に過ぎない。

 医療保険制度についても、「皆保険制は国民の義務である」と回答する割合は、81~96年生まれのミレニアル世代(現在23~37歳)では67%に達しているのに対し、メディケアの受給資格を得つつある46~64年生まれのベビーブーマー世代(同55~73歳)では57%、28~45年生まれのサイレント世代(同74~91歳)では52%に止まっている。

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