米国も財政再建より減税優先、タカはどこへ行った?

財政赤字が拡大基調に転じた米国で、さらに赤字を増やすような税制改革の議論が進んでいる。財政赤字を問題視する機運は、なぜ高まらないのだろうか。(みずほ総研 欧米調査部長 安井明彦)

米国経済にはタカ派・ハト派と
2つ目のタカ派がいる

 米国経済について「タカ派」「ハト派」というと、トランプ大統領による連邦準備制度理事会(FRB)議長の指名で話題に上ったように、金融政策の世界で使われる場合が多い。景気に強気で利上げに前向きな「タカ派」と、景気に弱気で利上げに慎重な「ハト派」という構図である。

 その陰に隠れがちだが、実は米国には別の種類のタカ派が生息している。健全財政を重視する「財政タカ派」だ。とくに小さな政府を好む共和党で威勢が良かった勢力だが、最近ではめっきり影響力を失ってしまったようだ。

 象徴的なのが、トランプ政権が最重要課題とする税制改革の議論である。米議会の多数党である共和党は、10年間で1.5兆ドル程度であれば、税制改革による財政赤字の拡大を容認する方針を固めている。

 これは大きな方針転換である。トランプ政権が目論む大型の減税に関しては、財政赤字の拡大がハードルになると考えられてきた。なにしろ議会共和党は、今年前半の段階では、「税制改革で財政赤字を増やすわけにはいかない」という方針だった。それどころか、10年間で6兆ドル近い財政赤字削減策を講じ、2027年度には財政赤字をゼロにする計画すら示されていた。たとえ税制改革によって税収が減った場合でも、社会福祉関係の歳出を削減する等の措置を同時に講じて、あくまで財政赤字を減らすことが大前提だった。

 ところが、税制改革による財政赤字の拡大を認めることで、こうした財政タカ派的なスタンスは、あっけなく敗れ去った。1.5兆ドルという上限に収めるために、いかに改革案の中身を工夫するかが、今後の議会審議の難所にはなる。それでも、財政赤字の拡大が容認された事実は動かない。「小さな政府」を好んできた共和党においてすら、もはや財政赤字の削減よりも、税制改革を優先する勢力が主流派なのは明らかだ。