ビジネスモデル変革で
年率20%成長へと躍進
だが、10年ほど前からソフトのパッケージ販売というビジネスモデルに限界を感じ始める。
「モバイル端末やクラウドの普及など、お客さまを取り巻く環境の変化が激しさを増し、18~24ヵ月ごとに製品の新バージョンを販売する従来のモデルでは、その変化に追い付くのが難しくなってきました。また、ソフトの高度化に伴いパッケージ価格が上昇し、購入を躊躇(ちゅうちょ)するお客さまが増えていました」(ラムキン氏)
顧客のためにイノベーションを一段と加速する必要性があると判断した同社は、2010年代に入り、クラウド化とサブスクリプション(サブスク)化へと大きくかじを切った。18ヵ月ごとにバージョンアップした製品をパッケージ販売するのではなく、クラウドを通じて常に最新の製品を利用できるようにしたのだ。また、月額課金にすることで、購入のハードルを大きく引き下げた。
ただ、変革の実行は容易ではなかった。クラウド化、サブスク化に伴い、製品開発サイクルの短期化、ITインフラや社内会計システムの刷新、販売パートナーとの契約見直しなど、あらゆる面でビジネスを変革する必要があったからだ。「私たちは明確なゴールを全社員に示しました。そして、米国では“ボートを焼いてしまう”という言い方をしますが、退路を断って変革へとかじを切ったのです」。
11年には投資家に対しても、クリエイティブ製品群のクラウド化とサブスク化を宣言。結果、アドビはこの変革を見事にやり遂げ、年率1桁台だった同社の成長ペースは20%台へと躍進した。既存顧客の満足度が劇的に向上しただけでなく、新規ユーザーを多く獲得できたからだ。現在、サブスク購入層の4割超を新規顧客が占める。
サブスクビジネスでは、製品を利用し続けてもらうことが何よりも重要だ。アドビでは顧客が製品を十分に使いこなし、満足しているかをモニタリングし、その結果に応じて高頻度に製品改良を行っている他、学習用コンテンツやウェブ上でのセミナーなど、クリエイティブを自己学習できる機会を数多く提供している。
また、ユーザーの学びや製品活用を支援する人工知能(AI)「Adobe Sensei」の強化も進めている。「Senseiはドキュメントの世界にも革命を起こします。デスクトップ向けに作られたPDFドキュメントをモバイル向けに変換したり、PDFドキュメントの内容を音声で検索したりする技術を現在、開発しているところです」(ラムキン氏)。
デバイスを問わず常にイノベーティブな製品を利用でき、かつAIなどの技術でそれらの製品を誰もが簡単に使いこなせるようにすることで、「Creativity for All(全ての人々にクリエイティビティを)」というビジョンを達成することが、アドビの次の成長戦略だ。
一方、日本市場の状況についてアドビ システムズ常務執行役員の神谷知信氏は、次のように説明する。
「企業でデジタルトランスフォーメーションの動きが本格化する中、デジタルコンテンツの制作量が飛躍的に増えており、社員による内製化で対応するケースが増加しました。これに伴い、Creative Cloudの需要が拡大しています」
従来、日本での販売は全てパートナー経由であり、当初はサブスク化に難色を示す向きもあったが、「各社に何度も足を運んで説明し、納得いただきました。サブスク化後も大半のパートナーが、当社との取引で過去最高を記録しています」という。