イノベーションが持つ意味は時代とともに変化している。今求められているのは、デザイン思考やデジタル技術活用、スタートアップとのオープンイノベーションなどはやりの取り組みを「魔法の杖」と捉えて単発で取り入れることではない。これらの取り組みを「統合的な観点」で経営に取り込みながら、持続的な社会を創造していく視点で進めるイノベーション活動だ。デロイト トーマツ グループが2019年6月に開設したイノベーション創発施設「Deloitte Greenhouse」(デロイトグリーンハウス、詳細はこちら)では、こうした視点に基づくデロイト トーマツのイノベーション支援を体験できるセッションとして「Innovation Lab」(イノベーションラボ)を展開している。
イノベーションの意味を捉え直す必要がある
これから強く求められるのは、インクルーシブな視点
わが国において、イノベーション創出の必要性が叫ばれるようになって久しい。例えば、政府文書において「イノベーション」という言葉が使われることが増えたのは、2006年のことだ。前年まで「イノベーション」の用語を使用した閣議決定はわずか1件だったが、06年に10件、07年には20件と急増している(総務省調べ)。
一方で、新たな時代に向けた産業技術政策について議論する産業構造審議会・産業技術環境分科会の研究開発・イノベーション小委員会が19年6月に公表した中間取りまとめ「パラダイムシフトを見据えたイノベーションメカニズムへ ―多様化と融合への挑戦―」の序文では、次のように述べている。
この30年の間に、グローバル化や第4次産業革命が進展し、ソフトウェア産業等における収穫加速の法則などとともに新たなイノベーションのメカニズムが生まれ、世界の産業構造は激変した。<中略>誤解を恐れずに言えば、我々は過去の成功体験に囚われ続け、次の成功モデルを描けず、生まれ変われずに過ごしてきてしまったのかもしれない。
イノベーション創出の必要性を認識しながらも、過去の成功体験から抜け出せず、世界的な産業構造の変化に対応できていないとするこの指摘には、多くのビジネスパーソンが同意するのではないだろうか。とはいえ、イノベーションという言葉を、単に「技術革新」と捉える向きがいまだに多いのも事実で、そういう認識のままでは時代の趨勢に取り残されてしまう。
では、イノベーションの意味をわれわれはどう捉え直すべきなのだろうか。経済産業省が行った「企業・社会システムレベルでのイノベーション創出環境の評価に関する調査研究」の最終報告書(15年8月)では、イノベーションを以下のように定義している。
1.社会・顧客の課題解決につながる革新的な手法(技術・アイデア)で新たな価値(製品・サービス)を創造し
2.社会・顧客への普及・浸透を通じて
3.ビジネス上の対価(キャッシュ)を獲得する一連の活動を「イノベーション」と呼ぶ
つまり、社会や顧客の課題起点で新しい価値を創造して市場に浸透させ、ビジネスとしての収益をきちんと獲得すること。その一連の活動をイノベーションと捉えるべきなのだ。
デロイト トーマツ グループ(以下、デロイト トーマツ)の戦略コンサルティング部門であり、イノベーション戦略のカテゴリーで2017年、18年と2年連続グローバルNo.1と評価されている(注:米ALMインテリジェンスによる評価)、モニター デロイトのジャパン リーダー、藤井剛氏はさらに次のような視点を加えるべきだという。
「米国のシリコンバレーに拠点を置く、いわゆるメガプラットフォーマーやディスラプターといわれる企業たちは、グローバルにインパクトのある大規模なイノベーションを牽引する一方で、「社会的な格差」を拡大再生産しているのではないかという懸念が高まっています。企業が持続的な成長を目指す上では、社会に関わる全ての人によりよい価値をもたらすインクルーシブ(包摂的)なイノベーションという視点が今後必須となっていくでしょう。これは日本企業がグローバルに強みを発揮し得る潜在力がある領域でもあります。私たちは、単にデザイン思考やデジタル技術活用、あるいはスタートアップとのオープンイノベーションなどの“流行”を部分的に提供するのではなく、このような視点を土台にして、デロイトグループが有するイノベーションに関する広範な知見、タレントや最先端の実績を常に“掛け算”しながら、『統合的な視点』で企業のイノベーションを支援しているというのが、他社と圧倒的に違うポイントだと自負しています」