税務環境のパラダイムシフトに対応するために
日本企業はマネジメントをどう見直すべきか

OECD(経済協力開発機構)とG20によるBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトに代表される国際的な課税ルールの変更や、後戻りできないグローバル化の進展、そして税務のデジタル化など、税務環境のパラダイムシフトが加速している。日本企業は今、税務マネジメントの在り方をどう見直すべきなのか。税務部門を戦略的な組織に変革するためにリーダーが今取り組むべきことを、ワークショップを通じて整理できるのが、デロイト トーマツ グループのイノベーション創発施設「Deloitte Greenhouse」で提供する「Tax Transformation Lab」だ。

激変するグローバルな税務環境
税務マネジメントの抜本的見直しが問われている

税務環境のパラダイムシフトに対応するために日本企業はマネジメントをどう見直すべきか「Tax Transformation Lab」の運営を主導する
森田理紗子氏(左)と結城一政氏

 グローバルレベルでの競争力の強化を目的として、日本企業による海外進出や海外企業に対するM&A(企業の合併・買収)は増加の一途をたどっている。しかし、当然ながら各国・地域で税制は異なるため、グループ内のクロスボーダー取引に関して進出先の税務当局から税務調査や課税ペナルティー、多重課税などが生じてしまうケースが増加している。

 「M&A後のPMI(Post Merger Integration:買収後の統合プロセス)において、海外買収先企業のグループにおける税務組織をどうマネジメントすればいいのかといったご相談も増えています」。デロイト トーマツ税理士法人で国際税務・M&Aアドバイザリーを担当する結城一政氏はそう語る。

 日本企業における税務部門は、毎期の税務申告書の作成や、社内の税務処理の質問対応、税務調査対応といった、どちらかというとコンプライアンスとしてのバックオフィス業務が中心となっている。端的な例として、クロスボーダーM&Aの実行に当たり、事業部ごとの縦割りでなく税務効率性の観点からストラクチャーバランスをどう考えるか、知的財産管理はどのような配置が最適か、潜在的な税務リスクや訴訟対応をどう把握し判断するポリシーを構築するか、また、オポチュニティーを最大限活用できるようになっているか、といった戦略的な税務としての機能を果たす役割は、海外の競合企業に比べると十分に果たせていないのが、残念ながら実情だ。

 そのことは人的組織体制にも表れており、日本企業における税務とは財務/経理部の1つの課が担う場合が多く、結果、実質的な税務リーダーは課長職となり、経営戦略における存在感や発言力が不足している場合が多い。また、数年おきの人事異動もあるため、税務リーダー自身を含めて専門知識を有する人材の育成が難しいことも一般的だ。

 さらには、KPI(重要業績評価指標)も適正申告や調査対応が主眼であり、将来的な施策に対しての役割は求められていない。そのような状態では、税コストや多重課税リスクの削減によってキャッシュフローの改善を図るといった能動的な業務に取り組むことは難しい。ましてや、税務環境のパラダイムシフトに対応するために積極的に新たなテクノロジーを活用したり、M&AやPMIプロジェクト、ガバナンスに深く関わって事業部門と協働したりするといった、戦略的な業務を推進することは至難の業だ。

 これに対して欧米のグローバル企業の場合は、税務申告書作成や税務調査対応などのコンプライアンス対応のチームと、M&Aなどをはじめとする税務戦略を担う人員は別になっており、それらのチームを統括する税務部門のリーダーはCFO(最高財務責任者)直下として、社内的な発言力も強い場合が多い。

 「税務部門がバックオフィスとして、毎期の適正コンプライアンスに集中することが主眼で済む時代は終わりました」と結城氏は指摘する。例えば、日本の法人税の実効税率は約30%だが、海外グループ会社を含めた連結ベースでは30%を超える企業もかなりある。また、付加価値税(VAT)や関税ともなると、税務部門の業務範疇にすら入っていない場合も多い。

 「税負担の差は、そのままキャッシュフローの差となって表れます。税引前利益1億円をつくり出すのに、どれだけの売り上げが必要かを考えれば明らかです。実効税率が30%の企業と10%の企業では、M&Aや研究開発など戦略的な投資に回せる資金に大きな差が生まれます。主要な競合相手が国内から国外にシフトしている現在、戦略的な税務マネジメントに積極的に取り組まないと、グローバル競争には勝てないのです」(結城氏)

税務環境のパラダイムシフトに対応するために日本企業はマネジメントをどう見直すべきかデロイト トーマツ税理士法人
パートナー
結城一政氏(税理士)

 一方、BEPSへの対応も企業にとっては大きな問題となっている。「税の透明性や説明責任に対しては、各国の税務当局が厳しく追及するようになっています。日本企業でアグレッシブな租税回避を図る例はまれですが、本社による税務ガバナンスが十分に利いていない状態のままだと、海外の至る所で子会社が現地当局から指摘を受け、追徴課税を受けるリスクが一層高まります」。こう話すのは、デロイト トーマツ税理士法人で税務体制・業務のコンサルティングを手掛ける森田理紗子氏だ。

 海外グループ会社が増えても従来のままの現地ルールで税務業務を続けていたり、買収した海外企業に税務を全面的に任せていたりすれば、リスクは高まる一方だ。そうした点からも、税務マネジメントの在り方の見直しは喫緊の課題となっている。

 税務のデジタル化についても押さえておく必要がある。税務は従来、デジタル化が遅れていた領域だったが、BEPSの影響もあって電子データによるリアルタイム・レポーティングを求める各国の税務当局が増えている。電子データでタイムリーな情報開示が求められるようになりつつある中、もはや対応を先送りすることはできない状況にあるのだ。

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