業務の8割はいまだ
紙ベースという非効率性
今や顧客のエクスペリエンス(体験)はビジネスの成功のために不可欠となっている。そこで、DCがエクスペリエンスの変革に寄与した例を幾つか紹介しよう。
あるEV(電気自動車)メーカーでは、定期点検や修理などの際に必要な顧客との文書のやりとりをDCでデジタル化した。ユーザーは車の中から各種サービスを求めることができるだけでなく、そのまま車の中でフィードバックを得たり、サービスにかかるコストを知ったり、あるいは電子サインで署名をすることも可能になった。「カスタマーエクスペリエンスを中心に、顧客との取引プロセスそのものを再検討した成功事例といえます」とグリリ氏は語る。
世界的な大手銀行の英HSBCも、口座開設の申し込みから取引開始に至るまでのカスタマーエクスペリエンスを改善するために、DCを導入した。口座開設に必要な申込用紙をデジタル化するだけでなく、プロセス自体を合理化するために、申込用紙をウェブ、電話、あるいは直接店舗で入手したいずれの場合においても、顧客が戸惑うことがないようにヘルプ機能を用意。チャット機能を使いながら、申し込み手続きをスムーズに完了できるようにしている。
DCの導入は、企業の生産性やエンプロイー(従業員)エクスペリエンスの向上にも貢献している。英国の自動車メーカー、ジャガー・ランドローバーでは、従業員がかつて、承認が必要な文書を大きな本のように製本して持ち歩き、関係各所に署名を求めて回っていた。だが、DCや「Adobe Sign」を活用することでこれらを自動化したことで、従業員は新たな価値を生み出す業務に、より多くの時間を充てられるようになった。
「われわれが調査会社のIDCと共同で行ったグローバルな調査によると、業務プロセスの8割はいまだに紙ベースで行われています。また、3分の1の従業員が付加価値を生み出さないプロセスに関わっていることも明らかになりました。業務効率改善に向けて大きな成果を上げるには、DCのようなデジタルソリューションを導入すると同時に、業務プロセスそのものを見直す必要があります」とグリリ氏はアドバイスする。
組織のデジタル変革を加速させるドキュメントプラットフォームであるDCは、さらなる利便性の向上のため、マイクロソフトのオフィス製品群との連携を強化している。AcrobatはWordやExcel、PowerPointといったオフィスアプリケーションと互換性を持つ他、クラウド上で作成したPDFを共同作業ツールのSharePointで共有し、そのまま編集することも可能となっている。
また、新たなテクノロジーへの対応も積極的で、開発中の最先端機能を披露するイベント「Adobe Summit Sneaks」では、AI(人工知能)や音声アシスタントを応用したサービスやプロダクトが多数紹介されている。今後、PDFの作成・編集や検索といった機能に、これらのテクノロジーが搭載される日もそう遠くないだろう。