「HILLTOP」vs「能作」
　社員食堂がすごいのは、どっち？

9月12日の『カンブリア宮殿』（テレビ東京系）で一躍話題となった、富山県高岡市にある「能作」は、北陸新幹線・新高岡駅からタクシーで15分前後、日中でも3000円以上かかる。失礼ながら、あたりは何もない「片田舎」だ。だが、今、ここに年間「12万人」が殺到している！
能作克治社長（61）は大手新聞社のカメラマンから一転、能作家の一人娘と結婚し、婿（むこ）入り。長い間、「マスオさん生活」を送ってきた。カメラマン時代は入社2、3年目で年収500万円超。それが鋳物職人となったとたん、年収は150万円と「3分の1以下」に急落したという。
そんなある日、「工場見学をしたい」という電話があった。小学生高学年の息子とその母親だった。工場を案内すると、その母親は、信じられないひと言を放った。
「よく見なさい。ちゃんと勉強しないと、あのおじさんみたいになるわよ」
その瞬間、能作は凍りついた。全身から悔しさがこみ上げてきた。同時に、「鋳物職人の地位を絶対に取り戻す」と誓った。
閉鎖的な高岡の地で「旅の人（よそ者）」といわれながら、1200度以上の熱風と対峙し鋳物現場で18年、4リットルの下血も経験しながら必死に働いた。
そして2017年、13億円の売上のときに16億円をかけ新社屋を建てた。すると、社員15倍、見学者300倍、さらに売上も10倍になったのだ。
しかも、「営業なし」「社員教育なし」で！
このたび、能作克治社長の初の著書『社員15倍！見学者300倍！ 踊る町工場――伝統産業とひとをつなぐ「能作」の秘密』が、話題となっている。
そんな中、第7刷突破のロングセラー『ディズニー、NASAが認めた 遊ぶ鉄工所』の著者・HILLTOP山本昌作副社長がついに能作を訪れた。
そこで交わした時間は4時間！日本中探してもこれだけ「ものづくり」が好きな経営者同士は存在しないだろう。両書を担当した編集者も興奮の連続だったという。それでは「修羅場経営者in富山」の初対談を紹介しよう。（構成・寺田庸二）

「HILLTOP」vs「能作」
　社員食堂比較

能作　『遊ぶ鉄工所』のカバーにある、この銀色窓のカーブがカッコいい。太陽がさんさんと注ぐとキラキラ光る。御社の今の業績、そしてこれからの未来そのものに感じます。
社員食堂も明るくて居心地よさそうですね。

山本　社員食堂はみんなが集う場所なので明るくしました。

能作　だからうちも、社員食堂は一番明るくていい場所につくったのです。今、「みんなが集う場所」とおっしゃったでしょう。僕もまったく同じなんです。

山本　社員食堂をわざわざ社屋の4階にした理由は見晴らしのよさのためです。
　普通の会社だと、そういうところは大会議室、社長室、役員室などにするけれど、うちは絶対にそうしない。全部、社員に開放した。そうしたら、さすがに社員も驚いていました。社員が36人のときに100名を収容できるレストラン風の社員食堂をつくったわけですから。

能作　ですよね。それはびっくりするでしょう。

山本　最初は「バカじゃないの」という人もいました（笑）。
　実は、当時、まったく光が当たらなかった「中小企業向けの給食事業」を、うちで実験したのです。まずここで成功事例をつくり、他社で横展開していけたら、事業化できる。
　僕の10歳くらい下の後輩の弁当屋がすぐ近くにあったけれど、当時、赤字だった。
　彼は証券会社から実家の給食屋を継いだのですが、赤字が止まらない。ネガティブな話ばかりする彼と話すのも嫌だなあと思っていたのですが、彼は僕のところにやってきて質問し続ける。すると僕が「おまえの考えは甘いぞ」とバッサバッサ切っていく。
　さすがにもう来ないだろうと思ったらまた来る。なかなか根性あるなあと思いながら中小企業向けの給食事業というブルーオーシャン市場を開拓してみたらどうかといったら、1年で黒字になったのです。

能作　それはすごい。

山本　だから彼は僕のことを師匠だといっている。
　新社屋を建てたとき、「僕は社員食堂をやりたいから、おまえ、頼むで」といったら、ふふっと笑うんです。
「山本さん、それは無理ですわ」と。腹立ちますよ。
「山本さん、社員食堂は、最低200～250人規模の会社でないと採算取れないんです」と。

能作　事業として成立しないと。続きは次回訊かせてください。