事業活動に支障を来しかねない環境課題としてCO2 削減の次に企業が取り組み始めているのが「水リスク対策」だ。気候変動や都市人口の急激な増加などによって、特に開発途上国の水リスクが顕在化している。一方、国内では「老朽化した水道施設の更新」が喫緊の課題だ。今、日本の企業や水道事業はこの水リスクに対してどうマネジメントしていくべきなのか。
東京大学大学院工学系研究科
水環境工学研究センター長 都市工学専攻
滝沢 智 教授(工学博士)
水環境工学研究センター長 都市工学専攻
滝沢 智 教授(工学博士)
そもそも事業活動に支障を来しかねない「水リスク」とはいったい何か。都市水システムなどを研究している東京大学大学院の滝沢智教授は、最も大きなリスクとして「渇水」と「水害」の二つを挙げる。
渇水については近年、大規模で深刻な水不足が世界各地で発生している。例えば、南アフリカのケープタウンは、2018年に大干ばつに見舞われて四つのダムが枯渇寸前となり、「市民が使える水は1人1日50リットル、トイレで水を流すのは1日1回、シャワーは週1回」といった厳しい制限がかけられた。市では水の供給が完全に停止する日を『デイ・ゼロ』と呼び、市民に危機意識を喚起している。人口は横浜市と同じ約400万人、いかに非常事態かが想像できるだろう。19年には、フィリピンのマニラやインドのチェンナイでも深刻な水不足が起き、経済に重大な影響を及ぼしている。
水害も近年、世界各地で深刻化している。11年にタイで起きた洪水では、浸水被害に遭った工業団地に入居していた多くの日系企業が操業停止に陥ったのは記憶に新しいところだ。部品供給が停止し、グローバル企業のサプライチェーンが分断された。