オムロンの経営には、事業ポートフォリオを見直す仕組みがビルトインされています。全社で100ほどの事業単位が常にどのような状況にあるのか、会社が“ヘルシーな状態”に保たれるようにしています。たとえ事業が順調だったとしても、時代の変化の中で、必ずしもオムロンが事業のオーナーで居続けることがベストとは限らないのです。

 ファクトリーオートメーションとヘルスケアに注力すると決めていたので、車載はオムロン社内にいると、三番手以下の事業になってしまいます。片や自動車部品業界はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化の四つの技術トレンド)の大変革に直面しており、車載には莫大な投資と覚悟が必要です。

 この先10年間、オムロンが勝ち続けられるかというと厳しい。ならば、自動車部品を主力と位置付ける日本電産さんと一緒になった方がよいと決断しました。

――センシングと制御をコア技術に特定して、ある程度の“転地”もやって新しい領域へチャレンジする。その一方で、オムロンはこの事業のオーナーいるべきではないと収益事業の切り離しも行う。経営が冷徹でなければ、車載の身売りのような意思決定はできないのでは。

 明確な物差しがあります。二つあって、一つ目はオムロンの事業戦略に合致しているかどうか。二つ目はROIC(投下資本利益率)を主とした事業の価値評価です。100くらいある事業を、S(投資領域)、A(再成長検討領域)、B(成長期待領域)、C(収益構造改革領域)の四つに分類し、2年連続でC判定となったら、審議対象になります。

――2年で成果を求められる。厳しいですね。

 そうなんです。審議対象になったら即、売却というわけでもないんですがこのポートフォリオマネジメントの責任者はCEO(最高経営責任者)ではなくて、CFO(最高財務責任者)にしています。

 だから「CEO肝いりの事業だからC判定でもいいや」とはならない。問題事業を抱えるビジネスカンパニーの社長はCFOと真剣勝負をするわけです。「1年後にはこうやってBに上げる」とビジネスプランを主張し、1年後には当然結果が求められます。

――社長はポートフォリオ経営を徹底させるために、どのくらいの時間とエネルギーをかけているのですか。

 もちろん議論はしますが、ポートフォリオは仕組みでワークしているので、私自身がここに労力をかけることはありません。それよりも、ある事業をSに上げる戦略を立てたり、オムロンに足りない“ピース”を協業やM&Aでそろえられないか考えたりという方に労力を使っていますね。

 「多産多死のマネジメント」が大事なんです。チャンスがあると思ったらなんでもチャレンジする。でもあかんかったら撤退するよと言っています。挑戦しやすい、でも退出もしやすい柔軟な仕組みがないと、これだけ変化の激しい時代には生き残れないと思いますね。細かな市場調査なんてしていたら、その結果が出る頃にはマーケットが変わってしまってチャンスを逸してしまう。

――この機動的な仕組みや企業理念がよっぽど社員に浸透しているということなんでしょうか。

 そう。じゃないと企業理念経営なんてできないです。オムロンの存在意義はなんだ、存在理由はなんだということに回帰します。もともとオムロンはベンチャー企業で新しい価値を作るところに挑戦しようということでやってきたので、多産多死のマネジメントが体質に合っていますし、グローバルな社員にも共有されていると思います。

最も緊張する「社長指名システム」
続投するべきかどうか自問自答する

――山田社長は1年に1回、最も緊張するシーズンがあるそうですね。

 毎年11〜12月に社長指名諮問委員会に呼び出されて、「来期に社長継続の意思があるかどうか」「もしものことが合ったら後継者は誰か」などを問われるのです。私はこの委員会には属しておらず、この委員会で来期に社長を続投させるかどうかが議論され、指名されたならば取締役会で決議されるというステップを踏みます。

 指名されなかったり、期の途中でも降りた方がいいと言われたりすることも、僕自身が覚悟しています。でも考えようによっては、いざ交代という時だけに開かれる形骸化された諮問委員会とは違うので、スムーズな仕組みですよね。辞めさせられる時でも揉める要素がないはずですから。

――達観されていますね。

 僕はサクセッションプランとして、この人を後継にしたいというリストは作りますけれども、僕には後継を指名する権利はないのです。だから、僕におべっかを使ったり、忖度したりということも起きません。僕のパワーは後継を指名できるということからくるパワーではないんです。より正しい意思決定をしているかどうか。企業理念に忠実であるかどうか。それを試されている。

――49歳の若さで社長に就任してこの6月で10年目に入ります。これまで、社長を辞めようと思ったことはありますか。

 毎年、悩みますよ。悩むというよりも、自問自答しています。環境が良い時でも悪い時でも、自分がやり続けることがいいのかどうか。最終的に「今は自分がやる方がいいだろう」と腹落ちしていなければ、重責を担い続けることはできません。

Key Visual by Noriyo Shinoda

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