度を超えた特別な待遇が
詐欺事件を誘発
会見を開くきっかけとなったのは言わずもがな、第一生命の西日本マーケット統括部(徳山分室)に所属し、山口県周南市で勤務していた89歳の元営業職員が引き起こした詐欺事件だ。02年から20年にかけて、顧客24名から約19億5100万円の金銭を詐取していたことが明らかとなっている。
会見では、詐欺事件の内容と発生した原因について説明がなされたが、すでに数多く報道されている通りの内容がほとんどだった。
詐欺の手口は、架空の金融取引があたかも存在するように持ちかけ、1人を除き現金での受け渡しを行い、便箋等に手書きのお預り証の文書に収入印紙を貼り付けて、金銭を不正に取得したというもの。被害者に対しては、年利5%や半年で元金が2倍、3倍になるという虚偽の取引を持ちかけていた。
こうした事件が20年近くにわたって発覚しなかった理由について第一生命は、4分野13項目にわたって整理。ポイントは幾つかあるが、最大の理由は「特別調査役」という特別な肩書を与えることで特権意識を持たせてしまったことだろう。
「コンプライアンス違反を含めて、自分の行為は例外的に許されるはずであるという特権意識による『正当化』があった」と第一生命は分析。また、こうした特権意識から元営業職員は同僚などに対して、「言うことを聞かなければ辞めさせるといった、ハラスメント的発言などがしばしば確認されている」(田口城・コンプライアンス統括部長)という。
また、元営業職員の業務活動を報告させていなかったことや、コンプライアンスなどの研修などを受けさせていなかったなどの管理体制の欠如に加え、高額な契約者貸付に対する点検など、予兆を検知できなかったこともある。そして、何より元営業職員に関する事項について「穏便に収めたい」「関わりたくない」といった風潮があったとしている。
稲垣社長は会見で「トップセールスに対して、遠慮が起きていたのではないか。強く言えない体質があったのではないか」と述べているが、こうした企業風土は根が深く、「私の責任として企業風土を変えていく」と稲垣社長は決意を述べたが、そう簡単なことではあるまい。
そして、会見で曖昧な印象を受けたのが、被害者への救済と経営責任の不明確さだ。
まず、第一生命は被害額の3割を立替弁済しているが、それを超える分の弁済については、利息を受け取った被害者もいることなど個別に事情が異なるために、裁判所の調停制度を利用し、第三者の意見を聞いた上で相当額の解決金を支払うという。
だが、被害者弁護団は「直ちに全額補償する方針を明示するべきだ」との声明を会見当日に発表。匿名の被害者は「顧客を信用させるだけさせ、監督も行き届かない会社運営をしておきながら、被害弁済は第三者任せなのでしょうか」とのコメントを寄せている。
この第三者任せについては、経営責任について問われたときも同様で、稲垣社長は「責任を痛感しております。社外監査役など第三者の評価を踏まえてしっかりと対応していきます」と述べるにとどめた。
このように、どこか釈然としない説明が続いた記者会見だったが、極め付きは新たに公表された3件の事案のうち、最後の金銭不祥事案だった。
生保業界が騒然とした
事務部門での金銭不祥事
新たに公表された3件のうち2件は、営業職にあった女性が、契約者に対して金銭的な優遇制度があると持ちかけたのと、契約者貸付制度を悪用した不祥事案である。ところが、3件目は全く性質の違う不祥事案だったのだ。
これは、契約サービス部に所属する本社の内勤職員が、支払い期日後も請求がなく時効の対象となった年金保険契約について、あたかもその後に支払い請求があったかのように偽装し、上司の印鑑を無断で使用して、自身の家族口座に送金させたという事案だ。期間は14年12月から20年5月で、被害者は5件、被害額は約5230万円に上る。
第一生命は、山口県の事案と同じように扱い、さらりと並べて会見で公表したわけだが、「元営業職員が起こした他の4件と同列に扱っていいような不祥事案ではない」「本来ならば、この案件だけで会見なり、公表すべき事案だ。本当にびっくりした」と、他の生保各社は一様に驚きを隠さない。無論、社内にも大きな衝撃が走ったという。
もし、この不祥事案を同列に並べることに違和感を抱かないのであれば、それこそ再発防止策の要といえる企業風土・体質の改善に取り組むという経営陣の言葉も、虚しく響く。
第一生命といえば、10年前に株式会社化を果たし、大手生保の中において先進的な経営に取り組んできたはずだ。ましてや稲垣社長は、そのど真ん中で陣頭指揮をとってきた人物。その第一生命にあって過去最悪の金銭不祥事が連発している事態に、「金融当局も残念な思いでいる」との声が上がっている。経営陣こそが、創業者の言葉をしっかりと噛みしめるべきであろう。



