スペースジェット開発中止は「ない」
Tier1の「小型機シフト」対応にも意欲
そもそも事業規模的に、計画段階からスペースジェットが稼ぎ頭になると考えていたかというと、それはちょっと違うかと。
その話はさておき、立ち止まった経緯をあらためてお伝えすると、コロナ前までは開発が遅れて納期の見直しが必要になり、顧客に迷惑を掛けていました。これを踏まえ、開発期間を精査していた折にコロナ禍が襲来。飛行試験は止まり、航空機市場そのものが大きく変わりました。
市場が縮小している中では収益化が厳しいと判断し、立ち止まるという判断をしたわけです。
今は規模を縮小しましたが、型式証明(航空当局による“安全性のお墨付き”)を取得するためのプロセスを続けつつ、市場の先行きを見ています。
――再開する時期の見通しは立っていますか。
まだはっきりしておらず、今は決めていません。
――スペースジェットの開発を完全に中止し、脱炭素関連の新規事業などにリソースを振り向ける考えはないのでしょうか。
それはないですね。
――完成機事業では、スペースジェット事業とのシナジーを見込んで20年6月にカナダ・ボンバルディアの小型機「CRJ」事業を買収しました(現MHI RJアビエーショングループ)。開発を一時停止した今、この事業をどう位置付けているのでしょうか。
米国のドメスティック(国内線)の航空会社との接点として活用しています。事業は機体の修理がメインですが、その中でエアラインがどんなことに価値を置き、機体に何を求めているのかを聞いています。
従来のTier1事業では、接点を持てる顧客が米ボーイングなどに限られており、エアラインと直接お話できる機会はありませんでした。今、修理の場でエアラインの人間と話せるのは大きいです。事業としても拡大の余地があるので、もう少しカバー率を上げていきたいところです。
いずみさわ・せいじ/1957年生まれ、63歳。81年に三菱重工業入社。技術統括本部技術企画部長などを経て、2013年に三菱自動車常務執行役員に転じる。16年に三菱重工業に復帰後は、執行役員、常務執行役員、グループ戦略推進室長などを歴任し、19年4月より現職。Photo by K.S.
――それはつまり、米国の航空会社の要望を、将来的にスペースジェットの開発に生かすということでしょうか。
その余地はありますが、より大きな枠組みで捉えています。航空機ビジネスをやっていく上で有益なネットワークだという認識ですね。
――Tier1事業では今後どのような戦略を取りますか。コロナ禍が終息した後は、三菱重工と関係性の強いボーイングの大型機ではなく、欧州エアバスが強みを持つ小型機が主流になるとの見方もあります。
確かに、今までの三菱重工は大型機を得意としてきました。ただ小型機についてもいろんな企業と話はします。それはエアバスやボーイングに限らず、です。
顧客ありきの話ではありますが、OEM(相手先ブランドによる生産)の戦略に沿ってさまざまな提案をしながら、小型機に関するビジネスにも取り組みたいと考えています。
二酸化炭素回収ビジネスに自信
水素ガスタービンはGE・シーメンスと勝負
――火力発電事業も脱炭素シフトに伴って先細りしていくことは間違いありません。どう備えていますか。
二酸化炭素の回収・貯留(CCS)ビジネスの成長が見込めると自信を持っています。
というのも、回収までの工程であれば、当社はすでに大規模プラントを開発済みで、商用実績も豊富です。例えば、16年末には米国テキサス州の火力発電所で、1日当たり4776トンの二酸化炭素を回収できる世界最大級のプラントを稼働させました。他にもベトナム、カタール、日本などの企業にプラントを提供中です。
貯留や再利用には課題もありますが、石油を採掘した後の空洞や、岩塩を除去した後の洞窟に二酸化炭素を送り込むプロジェクトを欧米など10カ所以上で展開しています。
――現政権は原子力発電所の新設には消極的ですが、原子力事業の先行きはどうみていますか。
原子力発電は二酸化炭素を排出しないので、カーボンニュートラルを達成する上では必要だと考えています。あくまで安全安心という前提条件が整い、国民が合意すればの話ですが、まずは再稼働、そしてリプレース(建て替え)が進んでくれればとは思っています。
――小型原子炉に参入するとの報道もありましたが、この技術への期待のほどは。
今すぐ使えるレベルにはないので、実用化にはもう少し時間がかかるでしょう。三菱重工として、小型炉の推進にかじを切るという考えはないですね。
――脱炭素シフトに備えて水素ガスタービンを開発中ですが、この分野の製品は米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスといった強敵も準備しています。
われわれは水素ガスタービンの開発を、昨今の脱炭素シフトを受けて急に始めたわけではありません。長年にわたって改良を重ね、燃料投入時に炎が逆流する「逆火」現象を抑える技術などを進化させてきました。実証はこれからですが、研究開発は終盤に入っており、あまり心配していません。
当社の水素ガスタービンは、燃焼器を交換するだけで置き換え作業が完了するのも売りです。本体ごと取り換える必要がないので、実証後は既存顧客を中心に提案していきます。
旧MHPSの合弁解消で「仕事しやすく」
新たな稼ぎ頭「モビリティ事業」の正体は
――ガスタービンの開発を手掛ける子会社、三菱パワーは20年に日立製作所との合弁を解消し、旧三菱日立パワーシステムズ(MHPS)から現体制になったばかりです。それからわずか1年弱で、この10月に三菱重工に統合します。相次ぐ体制変更の狙いは何でしょうか。
日立との合弁解消の狙いは、技術面での制約の解消です。MHPS時代は両社の特許や機密情報、ノウハウなどが漏れないよう、お互いに気を使っていました。それがなくなったことで仕事がしやすくなったのは確かです。
三菱パワーを三菱重工に統合する目的は、投資のリスク管理です。脱炭素関連の投資は長期にわたりますし、リスクを含むものもあります。今後はこれまで三菱パワーに任せていた投資も三菱重工で管理し、エネルギー事業全体の投資戦略を練っていきます。
――今後の事業計画では、30年度における売り上げ目標を、脱炭素関連の新規事業で3000億円、モビリティなどの新領域で7000億円としています。“本業”より期待度の高いビジネスは何ですか。
ITを活用した物流の自動化など、「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化)」の時代に向けたサービスです。
例えば宅配便で荷物を送る際、倉庫や棚、フォークリフト、搬送機、トラックなど、さまざまな工業製品が介在します。これらを全てインターネットにつないで一元管理すれば、出荷から配送までを自動化したり、コールドチェーン(低温物流)の温度管理を効率化したりできると考えています。
CASE市場が立ち上がるのはまだ先ですが、既存事業の延長線上ではなく完全な新ビジネスであり、成長の余地があると考えて高い目標を定めました。
――日立がIoTプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」を成長戦略の核としているように、三菱重工もソフトウエア領域を重視するということでしょうか。
重視はしますが、方向性が違います。当社はプラットフォーム単体を拡販することは考えていません。過去に商用化しているガスタービンの遠隔監視システムなどと同様、自社製品に組み合わせられるソフトウエアを提供し、複数のハードウエアをつなぐことを構想しています。
Key Visual:SHIKI DESIGN OFFICE, Kanako Onda



