本業消失#4

世界的な脱炭素の潮流を受け、三菱重工業、IHI、川崎重工業の社員を取り巻く転職事情に異変が起きている。それまで会社を支えてきた「火力発電エンジニア」が将来を悲観し、転職に向けてにわかに動きだしたのだ。一方で各社は、新たな成長ドライバーを生み出す人材を確保するべく、電動化やITなどに精通した人材の中途採用に乗り出している。過渡期において、重工メーカーで求められる人材像はどう変わるのか。特集『三菱重工・IHI・川重 本業消失』(全5回)の#4では、取材を通じてその答えを探った。(ダイヤモンド編集部 濵口翔太郎)

脱炭素シフトで火力発電エンジニアに逆風
「引っ張りだこ」から配置転換の対象に

「また火力発電エンジニアからの転職相談か」――。ある人材紹介会社社員は、大手重工メーカーに在籍する転職希望者の経歴を見るたびに、時代の移り変わりを感じている。

 というのも、国内外で石炭火力発電所の新設計画が複数動いていた4~5年前までは、三菱重工業・IHI・川崎重工業の「3重工」を中心に、石炭火力発電所などの設計スキルを持つエンジニアは業界で引っ張りだこだったからだ。各社からは「いい人を採りたい。誰かいないか」といった相談が積極的に寄せられていたという。

 しかし、世界的に脱炭素シフトの潮流が押し寄せ、石炭火力発電所の新設案件が急減したことで、こうした要望はピタリとやんだ。入れ替わるように増えたのが、市場の先細りを懸念して「会社を辞めたい」と相談に駆け込んでくる火力発電エンジニアだったのだ。