本業消失#1Photo by Kazutoshi Sumitomo

過去に7000億~8000億円を投じてきた国産ジェット旅客機「三菱スペースジェット」の開発活動を事実上凍結する道を選んだ三菱重工業。新たな稼ぎ頭を見いだすべく、今後は“本業”に経営資源を振り分けるが、エネルギー事業や民間航空機事業を取り巻く環境は厳しい。三菱重工は大逆境下でどんな成長の青写真を描いているのか。特集『三菱重工・IHI・川重 本業消失』(全5回)の#1では、スペースジェットの開発凍結を決めた張本人である泉澤清次社長に聞いた。(ダイヤモンド編集部 濵口翔太郎)

大逆境をどう乗り切るか
三菱重工業・泉澤社長が明かす戦略

――新型コロナウイルス感染拡大の影響で航空機事業に危機が訪れ、稼ぎ頭であるエネルギー事業にも「脱炭素」の逆風が吹いています。

 民間航空機のTier1(1次下請け)事業は復活に時間がかかりそうです。一方でエンジン需要は戻ってきており、来年には従来の水準まで回復すると予想します。

 火力発電に関しては、オセロの石が白から黒にひっくり返るように、ある日突然全ての化石燃料が再生可能エネルギーに代わるわけではありません。中長期的な観点では、調整電源やベース電源を生み出すガスタービンがしばらく必要になるとみています。

 事業環境が厳しいとの見方はありますが、当社は水素を混焼することで二酸化炭素の排出量を抑えるガスタービンや、二酸化炭素を回収・貯留する技術を開発しており、チャンスでもあります。

――とはいえ、足元では「稼ぐ力」が低下しています。2020年度のROE(自己資本利益率)は3.1%と、前年度の半分以下に落ち込みました。23年度に12%まで高める計画ですが、どんなシナリオを描いていますか。

 コロナ禍を受けて事業ポートフォリオを絞りましたし、市場は少しずつ元に戻っています。今の体制で事業を回せば、決して無理な数字ではありません。在庫の削減、開発期間の短縮といった基本を徹底するだけで、財務体質はかなりの水準に達するはずです。特別な “打ち出の小づち”のようなことはやりませんよ。

――泉澤社長が見直しを決断した事業の筆頭格が、国産ジェット機「三菱スペースジェット」です。将来の稼ぎ頭になると期待された中で、開発を「いったん立ち止まる」と発表してから約10カ月。現状はどうなっていますか。