大恐慌襲来#4
写真:毎日新聞社/アフロ

三菱重工業傘下の三菱航空機が開発を進める国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット」が揺れている。「MRJ」から名称変更し、派生機の開発にも前のめりだった昨年から一変、開発費の大幅削減を決断。航空機の市場投入に不可欠な「型式証明(TC)」と呼ばれる航空当局による“安全に関するお墨付き”を取得するために採用した外国人エキスパートを大量リリースするなど、事業縮小に動く。特集『大恐慌襲来 「7割経済」の衝撃』(全22回)の#4では、スペースジェット事業を巡り、社内外に渦巻く「手仕舞い」の危機感を追う。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

様子見の事業縮小が命取り?
三菱航空機に広がる「やるせなさ」

「日本での生活を楽しむことができたよ。ありがとう」

 三菱重工業傘下で国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」を開発する三菱航空機の日本人社員は、今春以降、外国人特有のこうした「相手を気遣う言い回し」を、もう何度も投げ掛けられている。

 言葉の主は、通称“お雇い外国人”。完成機の市場投入に不可欠な「型式証明(TC。航空当局による“安全に関するお墨付き”)」をスペースジェットで取得するため、三菱重工がここ数年で大量に採用してきた航空機製造における外国人のエキスパートたちだ。

 スペースジェットは今年2月、初号機の納入時期について6度目の延期を発表したところであり、TC取得は道半ばだ。にもかかわらず、三菱航空機に三百数十人が在籍していたといわれる外国人エキスパートの多くは雇用契約を延長することなく、いまや100人程度に激減しているという。

 それもそのはずだ。三菱重工は今年5月、泉澤清次社長の指揮の下、今期のスペースジェットの開発費を約600億円と、前期の1409億円から大幅に削減することを発表したのだ。それに伴い、三菱航空機は外国人エキスパートの大量リリースのみならず、米ワシントン州の海外拠点の縮小や、日本人技術者の人員再配置など、抜本的な事業の見直しに取り掛かっている。

「開発費半減は通常の経費削減程度では達成できない。大規模な事業の縮小は不可避だ」と、ある三菱重工幹部はにべもないが、開発費を予算内に収めるため、三菱航空機は文字通り何でもやっている。サプライヤーに対し、今春時点で合計約400億円たまっていた既作業分の支払いを、最短で来年度以降に繰り延べてもらうよう申し出てまでいるというのだ。

 確かに、好調な伸びを期待されていた航空業界は、新型コロナウイルスの感染拡大で移動規制や外出自粛などが行われるようになったことにより、乱気流にのみ込まれている。

 旅客が激減して航空機需要が“蒸発”している上、「市場縮小に沿って効率を重視し、大きな航空機を飛ばして一気に旅客を運ぶようになるのか、長時間の『密』を避けるためにポイント・トゥ・ポイントで小さな航空機を飛ばし、旅客を小まめに運ぶようになるのか、コロナ終息後にどんな航空機が売れ筋になるのか見通しも立てづらくなっている」(経済産業省幹部)からだ。

 そのため、三菱重工の判断も、見方によっては状況を落ち着いて見極めるべく、いったんスペースジェット事業の羽を畳むために下したもののようにも受け取れる。

 しかし、一転して緊縮財政になったことで三菱航空機内部が抱く危機感は、“外野”が想像している以上に強い。長くスペースジェットの開発に携わってきた三菱航空機のある関係者は、「やるせないが、このままではTC取得は絶望的だ」と断言する。