三菱重工業は10月30日、子会社の三菱航空機で開発を進めていた三菱スペースジェット事業をいったん立ち止まると発表した。本件に関する報道が出てからしばしば比較対象として挙がっていた「ホンダジェット」は、世界に数多くのスーパーエリートを輩出してきたハーバード大学経営大学院(以下、ハーバード)でも教材として取り上げられている。『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)を上梓した佐藤智恵氏が、ハーバードで教材となったホンダジェットや三菱グループの事例をもとに、スペースジェットが抱える今後の課題と展望について解説する。
ハーバードの教授が注目していた
三菱重工のスペースジェット事業
本連載では10月21日に『ハーバードの学生が「ホンダジェット」の成功秘話に驚愕した理由』を掲載しましたが、奇しくもその翌日、長年三菱重工業の子会社である三菱航空機で開発が進められていた国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット」(旧MRJ、以下スペースジェット)が事業凍結を検討しているという報道があり、上記の記事にも多くの読者から大きな反響がありました。
ホンダジェットとスペースジェットはともに日本企業が新たに航空機事業に挑戦した事例であることから、もちろんハーバードの教授陣の間でも注目されてきました。ホンダジェットの教材を執筆したゲイリー・ピサノ教授は「MRJ(当時)にも興味があるので、もし三菱航空機が協力してくださったら、ぜひ教材を書きたいと思っている」とインタビューで語っていたほどです。
実は、ハーバードにおいて「乗り物」に関わる日本企業は常に研究対象となってきました。これまでトヨタ自動車とホンダを筆頭に、日産自動車、コマツ、さらには日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)などについての教材が続々と執筆されてきたのです。
現在、ハーバードの学生の間で最も有名な日本企業の一つは、JR東日本テクノハートTESSEI(新幹線の清掃を請け負う会社)ですが、テッセイの教材が誕生したのも、教授が日本の鉄道そのものに強い興味を持っていたからでした。
ですから、スペースジェットも事業縮小されるとはいえ、引き続きハーバードの研究対象であることは間違いありませんし、将来的に事業が再開し、アメリカでの販売が開始され、ホンダジェットのような成功を収めれば、教材になる可能性もあると思います。