コロナ禍は日本のジェットエンジン生産の60~70%を担うIHIにも暗い影を落としている。2020年度決算で民間航空機事業の売り上げが半減し、関連セグメントが400億円超の赤字を出してしまったのだ。他事業が踏ん張ったことで全体では黒字を死守したが、民間航空機事業と双璧を成す事業はまだない。勃興する脱炭素事業は“第2の柱”になれるのか。特集『三菱重工・IHI・川重 本業消失』(全5回)の最終回では、井手博社長を直撃した。(ダイヤモンド編集部 濵口翔太郎)
稼ぎ頭・民間航空エンジン事業は苦境も
復活見据えて人員削減せず
――これまで収益の大半を依存していた民間航空エンジン事業が、新型コロナウイルス感染拡大の影響で苦しんでいます。航空需要が少し戻っている地域もありますが、今後の状況をどう見通していますか。
確かに米国や中国では飛行機が飛び始めていて、復調の兆しは感じていますが、決して楽観視はできません。コロナ前の状況に戻るのは2024年後半から25年だと厳しく見積もって対策を練っています。
一方で、航空需要が早めに好転した場合はすぐ対応できるように準備もしています。実はこれも将来の課題になりそうなポイントで、航空需要が落ちたからといって(航空機事業に投下する)リソースを減らすと、復活したときに供給が追い付かなくなる危険性があるのです。
われわれが手掛けるエンジンは機体とは違い、飛行機が飛び始めると早い段階でメンテナンスや買い替えのニーズが発生します。この場合に備えて、当社では航空機事業における人材の配置転換をしていません。
――案件が減っている中で配置転換をしていないとなると、IHIの航空エンジニアは今どんな仕事に取り組んでいるのでしょうか。
収益性改善に向けた課題を洗い出し、一つずつ解消するミッションを任せています。棚卸し資産を減らすために調達の在り方を見直したり、手戻り(作業過程で問題が発生し、前の段階に戻ってやり直すこと)が発生しづらい開発プロセスを練ったりといった業務が多いのですが、これらを今のうちに終えておくことはコロナ終息後に向けた布石として重要です。
案件が殺到していた時期は「とりあえずモノを入れろ!」と納期最優先で開発していましたが、コロナ禍がそれを見直すいい機会になりました。今では部品などが滞留せずにライン上を流れていく体制に変わりつつあると自負しています。その努力の成果が、航空機需要が戻ったときに一気に表れるでしょう。
――そうはいっても、足元では民間航空エンジン事業の売り上げが半減するなど大打撃を受けています。航空機依存の脱却に向けて、開発を加速させている「脱炭素領域」で本業候補となる事業はありますか。