航空機依存のIHIと川重
エネルギー依存の三菱重工
とりわけ航空機ビジネスへの依存が顕著なのがIHIと川崎重工だ。全社の資産の約4割を航空機関連セグメントが占めるというから、その依存ぶりは半端ではない。
コロナが猛威を振るった20年、国内・国際線を問わず、エアラインの利用者数は大きく落ち込んだ。国際航空運送協会(IATA)によると、20年の旅客需要は前年比65.9%減となり、過去最低水準を記録した(RPK〈有償旅客数×輸送距離〉ベース)。
その影響で21年3月期は航空機産業に逆風が吹き荒れ、米ボーイングをはじめとする完成機メーカーから重工メーカーへの機体やエンジンの発注も急減。川崎重工の民間航空機関連セグメントは317億円の営業赤字に転落し、IHIの同セグメントも405億円の営業赤字に沈んだ。
わずか1年前まで収益の大半を依存していた成長ドライバーが巨額赤字に転落し、財務を痛めつけているのだから皮肉なものだ。川崎重工の橋本康彦社長は「30年ほどかけて強化してきた航空機事業が、1カ月で様変わりしてしまった」と嘆く。
一方の三菱重工も、国産旅客ジェット機「三菱スペースジェット」を除く「航空・防衛・宇宙」セグメントの21年3月期の事業利益が214億円と前期比6割も減少。機体ビジネスの不振の影響は確実に受けているようだ。
さらに見逃せないのが、「エナジー」セグメントへの利益依存度の高さだ。21年3月期では、連結の事業利益540億円に対して、エナジーのそれは1277億円。「航空機・防衛・宇宙」セグメントの948億円の赤字を跳ね返す実力を見せている。
実は、エナジーで航空機の不調をカバーする流れはコロナ前からの常とう手段である。スペースジェットの開発に累計7000億~8000億円を投じたことで発生した赤字を毎年補填してきたのもエナジー事業なのだ。
しかし、三菱重工のエネルギー頼みの戦術が通用しなくなる日も近い。国内外で脱炭素シフトの潮流が加速し、同社が強みを持つ石炭火力発電への風当たりが日を追うごとに強まっているからだ。
例えば、米バイデン大統領はパリ協定に復帰し、30年までに二酸化炭素(CO2)排出量を05年比で半減する目標を打ち出した。欧州のドイツ、英国、フランスなどは、50年のカーボンニュートラル(CO2排出量を実質ゼロにする)達成に向け、石炭火力発電所を全廃する計画である。
日本でも菅義偉首相が温室効果ガスの削減目標を引き上げたばかりだ。こうした逆風により、国内外で石炭火力発電の新設案件に急ブレーキがかかり、すでに21年3月期時点で、三菱重工の受注高は前期に比べて20%落ち込んだ。加えて日本の現政権は、三菱重工が強みを持つ原子力発電所の新設や再稼働に消極的である。長い目で見れば、エナジー事業の “消滅”は避けられない。
実際に、3社共に本業減速の影響を受け、「稼ぐ力」が急速に低下している。
川重は「次の本業候補」を明確に提示
鍵は「水素」と「ロボット」
それでは、3重工はいかにして本業苦境からの脱出策を講じようとしているのか。
競合2社に比べて、「次の本業候補」の軸を明確に示しているのが、川崎重工である。候補は水素事業とロボット事業だ。
かねて航空機依存から脱却するべく“種まき”を続けてきた水素事業は、脱炭素シフトを受けて追い風が吹いている。
同社は、30年前にJAXA(宇宙航空研究開発機構)種子島宇宙センターに液化水素の貯蔵タンクを納入するなど技術面で先行し、10年前から液化水素の海運に関するルール策定に向けて国に働き掛けるなど布石を打ってきた。
1万トンの液化水素を運べる大型運搬船の開発にも取り組み、30年に3000億円の売り上げ規模を見込んでいる。
もっとも現時点で、この船を顧客企業から正式に受注したという話は聞こえてこない。橋本社長は「すでに案件の相談が寄せられており、見込まれる売り上げを合計したらこの金額になる。水素社会を実現する上で、この目標は最低ラインだ」と強気の姿勢を見せるが、水素社会の実現は政策に左右されるもの。将来計画の遂行には政策リスクが伴う。
投資戦略から改革への本気度がうかがえないのも首をかしげたくなるポイントだ。川崎重工は水素事業に本腰を入れるための抜本改革として、この4月にエネルギー・環境プラントと船舶海洋の両カンパニーを統合した。だが、22年3月期に新カンパニーに割く設備投資額は全社の約9%にすぎない。この規模は苦境にある航空機関連カンパニー(34%)を大きく下回っている。
この状況に鑑みると、当面の稼ぎ頭になりそうなのは水素事業ではなく、同じく「30年に3000億円」の売上高目標を掲げるロボット事業の方だろう。22年3月期にロボット関連カンパニーに割く設備投資額は全社の約21%で、水素以上に期待していることが数字の面からもうかがえる。
ロボット事業の支えになりそうなのが、今春商用化し、すでに関西国際空港が導入するなど実績が出ている自動PCR検査ロボットである。このロボットは1回当たり1万円を支払うと、新型コロナウイルス感染症の検体採取から結果の通知までを80分で完了する代物だ。
自治体からも引き合いがあるほか、民間航空機のリソースを活用して製造しているため、積み上がった資産の活用法としても機能している。橋本社長はこのロボットを広く普及して旅行者の陰性証明を取得しやすくし、航空需要を戻すという壮大な計画まで描いている。本業消失の危機にある川崎重工の救世主になりそうな存在だ。
IHIでは航空機依存に舞い戻る
「ソフトランディング」シナリオも
同じく航空機依存が顕著なIHIは、利益率の高い発電設備などのライフサイクル(保守や整備)事業にリソースを振り向けて急場をしのぎつつ、アンモニアを燃料とするボイラーやガスタービンといった新領域での研究開発に取り組んでいる。
他にも、藻類を活用したバイオジェット燃料、CO2の回収・貯留・再利用(CCUS)、電動航空機エンジンの開発も進めるなど投資領域は幅広い。21年3月期からの3年間で、新規・既存事業合わせて3800億円を投資する計画だ。
ここで気掛かりなのは、IHIが目を付けた新領域はいずれも発展途上で、技術や採算、安全性などの面が事業化にふさわしいレベルに達する時期が見えない点だ。投資資金を稼ぎ出すライフサイクル事業が火力発電所のメンテナンス需要を見込んでおり、結局は脱炭素シフトによって先細りする可能性が高いことも懸念される。
その証拠に、IHIは新領域における売上高目標を開示していない。井手博社長は今後2年ほどかけて新領域の中から有望なものを見極め、23年に新しい事業ポートフォリオと経営目標を固める方針だが、その中に選ばれる新規事業がどれだけあるかは見ものである。
一方で、IHIの本業である民間航空エンジン事業は、川崎重工と三菱重工が手掛ける機体製造よりも立ち直りが早いとの見方もある。新領域の事業化に悪戦苦闘しているうちに旅客需要が戻り始め、コロナ前に販売したエンジンのメンテナンス案件が増えた結果、結局は本業依存に舞い戻るという“ソフトランディング”もあり得るだろう。
翻って、エネルギー依存に陥っている三菱重工はどうか。
スペースジェットの開発を事実上凍結したことで年間1200億円程度の負担がなくなり、成長に向けた投資にリソースを振り向ける態勢がようやく整ったタイミングだ。向こう3年間で計1800億円の投資計画を立てており、「エナジー事業の脱炭素対応」と「新規事業」にその半分ずつを割り振る。
エナジー事業では、水素ガスタービンやCCUS、水素製造などの事業化に取り組む。新規事業では「物流×デジタル」をテーマに、三菱重工が手掛ける倉庫やフォークリフトなどの機器をインターネットに接続した上で、荷物の積み降ろしや運搬を自動化するサービスを計画中だ。配送業者などをターゲットに据え、30年に売上高7000億円を目指す。
もっとも競合2社と同様で、三菱重工の成長戦略が必ずしも結実するとは限らない。ある三菱重工の社員は、エナジー事業の先行きについて「水素ビジネスにおいては、製造過程でCO2を出さない技術を強化しないと立ち行かなくなる。海外の顧客と話していても、生産時にCO2を排出する『グレー水素』では話にならないという反応。CO2フリーの『グリーン水素』を安定供給する仕組みを整えないと競争力に欠ける印象だ」と不安そうに語る。
新規事業においても、物流の自動化は米アマゾン・ドット・コムなどのIT大手が先陣を切って取り組んでいる分野であり、後発の三菱重工がどの程度の市場を獲得できるのかは未知数だ。
三者三様に“本業依存”脱却の道を歩み始めているが、そのハードルは極めて高いだろう。
Key Visual:SHIKI DESIGN OFFICE, Kanako Onda, Graphic:Daddy’s Home
2ページ目16段落目:75トン→1万トン
(2021年7月20日19:51 ダイヤモンド編集部)





