脱炭素#5
Photo:JIJI

日本の製造業で最も多く二酸化炭素を排出している鉄鋼業界への風当たりはすさまじい。国内3位の神戸製鋼は、日本製鉄とJFEホールディングスのどちらの傘下に入るのか。実は昨年、日本製鉄の経営上層部では密かに再編案が検討されていたのだが、脱炭素旋風の直撃によってその計画は“幻”と化してしまうかもしれない。特集『脱炭素 3000兆円の衝撃』(全12回)の#5では、鉄鋼メーカー3社の行く末を追う。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

高炉3社体制にメスを入れる
“幻”の再編計画とは

「結局あの会社は、合従連衡に動く気があるのかないのか。こちらにも事情がある。うちと統合検討する気があるのならば、早く打診してほしい。いずれにしてもタイムリミットは1年だ」――

 昨秋、鉄鋼最大手の日本製鉄の経営上層部の間では、鉄鋼業界における“最後の”業界再編の可能性が密かに検討されていた。その対象として見据えられていたのは、2017年に検査証明書のデータ改ざんなどの品質不正問題を引き起こしてもなお、独立独歩の姿勢を崩さなかった神戸製鋼所(国内3位)の鉄鋼事業である。

 直前の昨年9月1日には、橋本英二・日本製鉄社長が複数の報道陣の前で「これ以上、国内の再編統合を進める考えはない」と言い切っていたところだった。

 だがそれはあくまでも表向きの話だ。その上、声高には統合意欲を示せない事情もあった。

 というのも、日本製鉄は20年に吸収合併した日鉄日新製鋼(旧日新製鋼)の呉製鉄所(現瀬戸内製鉄所呉地区。広島県)の閉鎖など、生産能力の大幅削減を伴う「構造対策」を昨年2月に発表したばかりだったからだ。

“身内”のリストラに着手しておきながら、“他人”の製鉄所を救済する判断には、社内外からの反発が予想された。特に全工程の一貫休止を決めた呉をめぐっては、呉市民などに閉鎖の撤回を求められているところで、地元の住民感情には最大限の配慮が必要な時期である。

 しかし、だ。鉄鋼メーカーの救済依頼が“相手側”の方から持ち込まれたとなれば、話は別である。

 鉄鋼業界では02年に川崎製鉄と日本鋼管が手を組み、JFEホールディングス(HD)を設立。12年には新日本製鐵と住友金属工業が統合して新日鐵住金(現日本製鉄)が誕生した。こうした経緯から、鉄鋼各社には業界再編を必要に応じて着々と進めてきたという自負があるし、大型統合に対する免疫もできている。

 とりわけ、日本製鉄は「統合を頼まれた場合には、業界トップ企業の責任において断るわけにはいかない」(日本製鉄役員)との思いが根強かった。

 ところが、状況は一変した。新型コロナウイルスの感染拡大で被った経済的打撃をカバーしようと、成長戦略に「環境関連ビジネス」を据える動きが主要国で加速。カーボンニュートラル(炭素中立。二酸化炭素の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすること)という、鉄鋼業の息の根を止めかねない、超ど級の潮流が押し寄せている。

 そもそも、神戸製鋼に秋波を送っていたのは日本製鉄ではなくJFEHDの方だった。だが、これらのトップ2社は、もはや神戸製鋼の救済を考える余裕などない。

 本当に、このまま神戸製鋼の「嫁入り話」は消えてしまうのだろうか。