失われた30年に教訓はあるのか    

安田 大学の世界はまだまだ女性が少ないと思います。研究者にしても、学部長にしても。学長が女性という大学は、法政大のあと、駒澤大や東洋大が続いてはいますが。

後藤 2021年開校の芸術文化観光専門職大学(兵庫・豊岡市)学長に就任した平田オリザさんが、入学式の式辞で、女性教員の比率が低いことを謝り、この構造も変えていきたいと言っていました。早稲田大でも、元総長の白井克彦氏が教務部長だった1990年代に早くも女性と外国人をメインに採用していくと言ってそれなりに対応しましたが、大学業界全体では……。

安田 ジェンダー論では、教員の女性比率が少ないことが話題になりますね。

後藤 東大でも、修士課程に占める女性の比率は学部に比べれば高い。親の転勤で東南アジアに転校した中高一貫生がいましたが、彼女は優秀で、国際バカロレアの修了試験で満点の45点を取っていました。しかし、東大には行かず、シンガポール国立大に進みました。そこで学位を取って、その後にポストのあるところに向かうそうですが、いまの日本の大学はこうした優秀な女性を逃がしているのではと思います。さらに、海外の大学、研究所に優秀な若手女性研究者(ポスドク)が流れています。海外の大学や研究所の中には、住環境のみならず、配偶者のポストも用意してくれるところがあります。

――一方で、研究者の採用に、無条件でアファーマティブアクション*を適用してもよいものでしょうか。

後藤 そもそも、性別とか国籍とかといった壁は取り払うべきだと思いますが、ポストや役職に見合う能力は考慮すべきでしょう。先日ある大学の副学長に就任した外国人女性の話を聞いてきましたが、自分の頭の中で考えが整理されていないので、どうも分かりづらい。これが、女性だから、外国人だからという理由だけでポストを与えていたら、これは違うよなと思いました。国際通用性がありません。

――日本大の前理事長が逮捕されましたが、この件が何か影響を及ぼしそうでしょうか。

後藤 日大の場合、補助金が出なくてもなんとかなるだけの資金的な体力はあります。ただ、それも学費を積み上げたものですから、学生のためにもっとおカネを使ってほしいですね。そこがこれから評価されるのではないでしょうか。

安田 多くの私立大では臨時的定員増が認められていた時期におカネが積み立てられましたが、新たな校舎が必要なわけでもなく、おカネはあっても本来の目的には使えないという状況が続いています。目的外使用をどうするかという検討が、もう18年間進んでいません。何で手を打たないのか。

後藤 いまも同じ議論をしていますものね。1991年のバブル経済崩壊以来続く“失われた30年”ですが、この間、経済もダメでしたが教育もダメでした。文科省におカネ(予算)のないことがいろいろな問題の根幹にあります。おカネが使えることを前提とした議論と、そうでない議論は明らかに違います。若者の未来のためにおカネを使わないと、国が滅びますよ。

――貧すれば鈍するというのが、結論になってしまうのでしょうか。

後藤 時代に合わせたリカレント教育の問題にしてもそうです。DX(デジタルトランスフォーメーション)を迫られて「リスキリング」が注目されていますが、大学はいかに貢献できるのか。スタディサプリやユーデミー、N予備校など、企業がリカレント教育に注力して講座を充実させたら、大学の出番はなくなるかもしれません。社会人は余剰時間がなくて大学のリカレント講座は受けてもらえないという、これまでの言い訳は、このコロナ禍で通用しないことが分かりました。大学がリカレント教育市場で唯一優位にある点は、学位発行機関であることです。

 既に数年前からアメリカの大学は、最新のAI技術やその社会実装を教える講座を、修士課程を分割する「マイクロ・マスター」として展開しました。当時、大学に紹介してもまったく興味がないようでしたが、DXとともに産業構造の転換が求められる、いまこそ大学は「デジタルオリエンテッド」な知恵を出して、高等教育機関としての地力を発揮してもらいたいです。

安田 2年目になる2022年の共通テストは志願者減で、受験生の共通テスト離れが明らかになってきました。また、今年定員割れした私立大は5割近くで、大学の淘汰が今後、急速に進んでいく気がします。大学改革は待ったなしでしょう。

 奈良女子大に工学部、23年にはお茶の水女子大にも工学系学部の設置が予定され、女子大の巻き返しも進みます。学生募集がうまくいかなくなってからの改革では遅すぎます。集まっているうちに改革しないと、5年後には厳しくなってきます。改革は新キャンパスや学部増設だけではなく、教育の中身、学生をどう伸ばすかも大切です。大学にとっての“冬の時代”をどう乗り切るかは、喫緊の課題ではないでしょうか。

*性別や国籍で不利益を被らないようにする格差是正措置