富裕層 億万長者の実像#7Photo:Colin Anderson Productions pty ltd/gettyimages

電子部品メーカーのシライ電子工業前社長で創業家の白井基治氏(32歳)が、自身の取締役選任を求める株主提案を出したことが4月29日、ダイヤモンド編集部の取材で分かった。白井氏は今年3月、創業者の祖父・治夫氏(89歳)の意向で不当に代表取締役を解職されたと主張し、治夫氏の取締役復帰に反対。6月開催予定の株主総会は、創業者vs孫の異例の委任状争奪戦となる見通しだ。創業58年のオーナー企業で、なぜ“お家騒動”が勃発したのか。特集『富裕層 億万長者の実像』の#7で、その真相を探った。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

ファミコンの爆発的ヒットで急成長
京都企業の創業家社長が電撃解職の理由

「当社代表取締役社長の白井基治氏は、威圧的態度で適正な取締役会の議事運営を困難にし、監査等委員会の監査範囲の制約を始めとする重大な法令・定款違反を行う恐れが高まった」

 3月14日、シライ電子工業が「代表取締役の異動に関するお知らせ」を突如公表した。それによれば、冒頭の理由から同日開催の取締役会で白井の代表取締役社長を解職し、五藤学CFO(最高財務責任者)が同日付で後任社長に就任したという。

 シライ電子工業は、白井氏の祖父・治夫氏が1966年に京都で創業したオーナー企業である。同じ京都発祥の任天堂が83年に発売したファミリーコンピュータ(ファミコン)に基板を提供し、ファミコンの爆発的ヒットに乗じて急成長した。治夫氏は、2006年に東京証券取引所ジャスダック市場(現スタンダード市場)上場を果たした後に取締役を退き、その後は娘婿の総(おさむ)氏やプロパー社員らに経営を託していた。

 孫の白井氏は22年4月、父・総氏の退任以来11年ぶりとなる創業家出身の社長に就任。そんな“プリンス”が「威圧的態度」「重大な法令・定款違反」を犯したのであればただ事ではない。

 その真相を明らかにすべく、ダイヤモンド編集部は、無職となった白井氏を直撃取材した。すると白井氏は解職に納得せず、今年6月に開催予定の株主総会で自身の取締役選任を求める株主提案を4月25日付で提出したことを明らかにした。

 そして白井氏が口にしたのは、解職決議の黒幕に、取締役を退いたはずの治夫氏が存在するという驚愕の証言だ。結論から言えば、白井氏はオーナー企業の「聖域」に踏み込んだが故に、祖父の怒りを買った可能性が高い。

 その聖域とは何か。そしてオーナー企業の典型であるシライ電子工業で、一体何が起きているのか。次ページで白井氏の一問一答と併せて真相を明らかにする。