22年はデジタル実装元年
日本企業のDXを支援する

 われわれは、デジタル社会を作るために「デジタルを社会実装させる会社」になる。もうその視点だけでやっていきたいし、そのために何ができるのかを追求しています。

 デジタルを社会実装させるために5Gのインフラを作っているし、ビヨンド5Gのテクノロジーも磨いていて、NTN(非地上系ネットワーク)という空飛ぶ基地局の「HAPS」通信も開発しています。技術を進化させるために今まで以上に踏み込んだ。これらは私がCTO時代から仕掛けてきたことです。

――値下げから一転して、岸田文雄政権は5Gの整備を加速してデジタル化を推進する「デジタル田園都市国家構想」を掲げています。

 非常に良いと思っています。これは日本がデジタルを“経済復活の武器”に選んだということ。今まではデジタル化をやろうという言葉にとどまっていましたが、22年はそれを社会実装していく「元年」になるでしょう。

 日本を見渡しても、デジタルを社会実装するための武器を一番そろえているのはソフトバンクです。

 通信のインフラを運用する能力があって、サービスを提供するプラットフォームと顧客基盤がある。プラットフォームとはヤフーやLINEのオンラインのサービスプラットフォームだけではなく、スマートシティーやスマートビルディングを運用する基盤です。

 AI時代を見据えて海外から優秀な人材も採用しているところで、自ら構造改革をして、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に大きく貢献したいと思っています。

――デジタル化が進む中での課題はありますか。

宮川潤一・ソフトバンク社長兼最高経営責任者(CEO)みやかわ・じゅんいち/1965年生まれ。愛知県で起業した後、孫正義氏に誘われて2001年にグループ入り。06年のボーダフォン日本法人買収でソフトバンク取締役専務執行役員(CTO)、2014年スプリントテクニカルCOOを経て、18年ソフトバンク副社長兼CTO、21年4月より現職。トヨタ自動車との共同出資会社のMONETテクノロジーズ社長、「空飛ぶ通信基地局」を開発するHAPSモバイル社長も兼務 Photo by M.K.

 デジタルが社会実装される世界では、デバイスの量が爆発的に増えていく。例えば、企業の工場では段ボールの箱にまでタグが付くし、ロボットアームが24時間動いていくことになる。さらに、街では電気自動車(EV)という名の巨大なIOTデバイスが登場して、医療の世界ではオンライン診療が始まる。

 こうして工場、クルマ、医療の現場で爆発的にデバイスが増えていけば、電気の消費量も爆発的に増えていくことになる。

 われわれのような情報産業会社は、IOTデバイスで集めたデータの移動とデータの処理に莫大な電力を消費する。エネルギー問題とデジタル化は両輪なので、電気を使う側として持続可能な通信会社であり続けるための1つの答えがデータセンターの分散です。

 今の日本の構造は東京と大阪にデータセンターが集中して、8割以上のデータを分析していますが、このままの構造でデジタル化を進めれば東京と大阪で電力不足を引き起こしてブラックアウトすることになりかねない。それを回避するために、データセンターの分散を国全体で進めていくことを支援していきたいです。

――ソフトバンクの5G網は22年春までに人口カバー率が90%に達します。5Gの本格化で、企業や社会はどう変化しますか。

 22年はソフトバンクだけではなく、他のキャリアも5GのサービスがSA(スタンドアローン)化します。それによってようやく5Gの実力が4Gとは全く違うとユーザーも実感できるでしょう。

 今までの5GはNSA(ノンスタンドアローン)で「速い」というだけのサービスでした。それがSA化すれば「同時多接続」でたくさんのデバイスが一気につながるし、「低遅延」で1000分の1秒以下の遅延時間に短くなる。これでリアルの世界とバーチャル空間が隙間なく同時に動く「デジタルツイン」の世界が実現します。

 メタという社名に変更したフェイスブックが「メタバース」としきりに言っているのがデジタルツインのことです。

 そうした空間を企業に提供する「プライベート5G」のサービスを22年から始めますが、これによって工場のロボットアームの設計もバーチャルの空間であらゆる試験ができてしまうので一気に効率が上がる。日本の製造業のものづくりの考え方や工場の生産性はがらりと変わってくるでしょう。

孫正義氏と激論で
新サービス立ち上げへ

――孫さんのソフトバンク・ビジョン・ファンドとは、どんな連携を進めていくのでしょうか。

 ビジョン・ファンドのユニコーン企業のほとんどはコンシューマ(消費者向け)サービスの会社です。世界でヒットしたモデルを選んで日本に持ち込めば大チャンスになるので、ビジョン・ファンドの投資先とは毎日のように議論しています。

 ソフトバンクのコンシューマサービスは、通信、ヤフー、LINEも含めて顧客基盤では日本で一番大きい。事業構造という意味では、“通信会社”から脱却しなければなりません。

 値下げでARPU(1契約当たり収入)が落ち込んだコンシューマサービスの基盤を大きくするために複数の案件を仕込んでいるところです。

――孫さんとはどんな話をしているのですか。

 最近はペイペイの事業についての話が多いですね。孫さんは投資家だと言われることが多くなりましたが、あの人はやっぱりアイデアマンです。私は孫さんとは事業の話しかしませんが、あれだけの企画力がある人はいない。

 例えばビジョン・ファンドの投資先のユニコーン企業が、なぜ成功しているのか、私は孫さんの分析とセットで教えてもらっている。それに対して私は、そのサービスを日本にローカライズするためにこんなアイデアはどうかという話をすれば、孫さんは必ず「俺ならこうするね」と応えてくれる。

 孫さんのアイデアは常に「こうやったら世の中のやつは考えもつかない」というところまでたどり着く。それに対して私は「それは日本人には受け入れられない」と返すと「それならこれはどうだ」とだんだん議論が深まっていく。

 孫さんはやはり私の師匠です。そうやって議論を深めて結論を導き出せば、私はそれを採用するかしないかを決めるだけです。

 今まさにビジョン・ファンドの案件を参考に日本のコンシューマ向けの「アズ・ア・サービス」を立ち上げていて、値下げでへこんだコンシューマサービスを盛り返そうと準備に入っています。

Key Visual by Kanako Onda

TOP