楽天底なしの赤字#1写真:つのだよしお/アフロ、d1sk/gettyimages、Reiji Murai

楽天グループが携帯電話基地局の整備を加速している。三木谷浩史会長兼社長は当初計画の「5年前倒し」に自信を示しているが、それを揺るがしているのが競合のソフトバンクだ。ソフトバンクから楽天に転職した元社員が今年1月、不正競争防止法違反の容疑で逮捕されたことで「盗まれた情報で基地局整備が加速している」と主張し、5月に民事訴訟に乗り出した。その主張が本当ならば、楽天はこれまで整備した基地局を破棄するという前代未聞の事態に追い込まれ、昨年4月に本格参入した携帯事業が壊滅的なダメージを受けるのは必至。特集『楽天 底なしの赤字』(全7回)の#1では、独自取材により対立の構図を詳報し、泥沼の争いの行方を追う。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

iPhone発売で高揚する
三木谷氏を襲ったリスク

「ついにiPhoneを発売できる。楽天モバイルのネットワーク品質が認められたためだ」

 4月30日午前8時、東京・六本木の楽天モバイルストアで、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は高揚した表情を見せた。昨年4月の携帯電話サービスへの本格参入から1年。ついに米アップルからiPhoneを取り扱う権利を得て、同日から販売を開始したのだ。

 アップルは、iPhoneを取り扱う通信事業者に厳しい条件を課しているとされ、とりわけ通信ネットワークの品質は重要項目とみられてきた。

 iPhone発売イベントの終了後、記者団に囲まれた三木谷氏は「アップルの理解が得られて(携帯事業の開始から)脅威的なスピードで発売開始にたどり着いた」と繰り返し強調し、通信ネットワークの改善に自信を示した。

 もともと楽天は2019年10月に携帯事業に参入する計画だったが、基地局整備が大幅に遅れてサービス開始が半年ずれ込んだ。その遅れは20年3月末までに解消し、急速な巻き返しを見せている。

 当初は26年3月末をめどとしていた人口カバー率96%の計画は、「5年前倒し」(三木谷氏)で、今年夏までに達成する見通しだ。データを大量に使うiPhoneユーザーへのアピールになるのは間違いない。

 だが、三木谷氏の高揚感に水を差しかねない事態が発生している。軌道に乗り始めた楽天の通信ネットワークを構成する基地局が「消失」しかねない危機に陥っているのだ。

 一体どういうことなのか。