激変した多摩地区の進学状況

 東京都は、全国的に見ても中学受験率が突出していると先に述べた。東京都教育委員会『令和4年度公立学校統計調査報告書』によると、私立中学に進む割合は、1位文京区が49.4%と半分に達しているのに対して、23位江戸川区は10.3%、22位足立区は12.9%と、大学進学率以上に大きく差がある。こうした地域間格差が、先に見たように都立校でも顕在化している。

 進学指導に力を入れている都立29校のうち、上位校は旧学区の1区から4区に多く集まっている。有力な私立校も少ない多摩地区と23区東部が当てはまる旧5区から10区では、重点配置された都立中高一貫校が都立高校をしのぐ勢いも見せている。これらの点を念頭において、再び図2図3を眺めてみると、興味深い実態が浮かび上がってくる。

 都立の中高一貫校には、6年間完全一貫教育の中等教育学校と、高校に中学を付設して内部進学させる付設型がある。ランキングの上位には、2位小石川を筆頭に、7位には附属小も設けて12年間一貫教育とした立川国際、東京都立大学附属が前身の10位桜修館、14位南多摩、16位三鷹、これは千代田区に移管されたが18位九段と、中等教育学校が集まっている。

 後塵を拝する形となった付設型5校も、人気のなかった高校からの募集を停止して、いずれも完全中高一貫化してしまった。その背景には、海城や豊島岡女子学園といった人気の私立中高一貫準難関校が高校からの募集を停止している状況もあるだろう。いまや高校からも募集している難関校は、開成や早稲田、慶應義塾女子などごく一部に限られる。大学受験を考えると、6年の期間内で先取り学習も受験対策も実行可能な一貫校の方に分があることが大きい。

 多摩地区では、かつては立川、そして八王子東に注力されてきたものの、現実には国立のひとり勝ちのような状況になっている。多摩地区は元々公立志向が強く、私立には流れにくい傾向があったとはいえ、武蔵、三鷹、立川国際、南多摩といった多摩地区で都立中高一貫校が登場したことにより、一気に中高一貫校を受ける流れができてしまった。

 国立市のある公立中学の授業見学をしたときに分かったことがある。授業を引っ張る「オール5」のような勉強ができる層がごっそりと抜けた結果、平均的な「オール3」のような生徒が授業をリードしていた。これに少子化の波が重なり、高校受験をする優秀な層がごっそりと抜けている。
 
 国立高校が多摩地区を代表する進学校となった背景には、「日本一の文化祭」と称される高校生活の充実度に加えて、山極寿一・前京都大総長、新井紀子・国立情報学研究所社会共有知研究センター長といった知名度の高い研究者を輩出するなど、卒業生の活躍も大きい。さらに、一橋大に近い文教地区にあることも受験生に訴求、結果として多摩地区の少数精鋭の高校受験生が国立に集まっている。