4つの刑事訴追で有罪判決なら
最大で700年超える懲役!?
トランプ氏に対する起訴は、初めて立候補した2016年大統領選の影響を懸念して不倫の口止め料支払いの帳簿虚偽記載で今年3月、ニューヨーク州の大陪審に起訴されて以来、20年大統領選の際の支持者の議事堂乱入事件や退任の際の国防機密文書の持ち出しなど4件に達している。
米ブルームバーグの分析を参考にすると、問われている91の罪状ですべて有罪となると、最大で700年を超える懲役になる計算だ。だがそれでも、トランプ氏に対する支持は頑健だ。
米政治サイトのリアル・クリア・ポリティクスの集計によれば、第1回のテレビ討論会が行われた時点でのトランプ氏への支持率は50%台半ばで、共和党の指名候補争いで二番手のデサンティス知事に約40%ポイント強の差をつけている。
これは、共和党の予備選挙では00年の大統領選挙でのブッシュ(子)氏以来となる大幅なリードだ。米ワシントンポスト紙の分析によれば、予備選挙が現在の形式となった1970年代までさかのぼっても、ここまでの大差を覆された候補者はいない。
実現すればバイデン氏との再戦になる本選挙についても、夏場の支持率はきっ抗している。7月23日から27日にかけて米ニューヨークタイムズ紙が行った世論調査では、トランプ氏とバイデン氏の支持率が43%で並んでいる。
揺らがぬ白人労働者階層の支持
バイデン氏に対しても30%ポイント上回る
トランプ氏の強さの源泉が、民主党のヒラリー・クリントン候補を下した2016年の大統領選挙と同様に、労働者階層(ワーキング・クラス)の白人有権者にあるのは間違いない。
16年の大統領選挙では、経済格差の拡大や人種・価値観の多様化などを背景に、IT化や経済のサービス化、輸入品に押されて地盤沈下した製造業などに従事する労働者階層の白人有権者の不満や失業などへの不安が高まり、こうした人々の代弁者として、トランプ氏が予想外の勝利を収めた。
こうしたトランプ氏のコア支持者である白人労働者階層の支持は現在でも揺らいでいない。
米国の世論調査では、大卒未満の有権者を便宜的に「労働者階層」として分析するのが通例だが、前述のニューヨークタイムズ紙の調査では、共和党支持者に予備選挙で支持する候補者をたずねた質問で、トランプ氏は大卒未満の白人有権者から60%を超える支持率を獲得している。二番手のデサンティス氏に約50%ポイントの大差をつけた。
バイデン氏との比較でも、トランプ氏に対する白人労働者階層からの支持は盤石だ。同じニューヨークタイムズ紙の世論調査では、大統領選挙での支持者を問う質問で、大卒未満の白人有権者の約60%がトランプ氏を支持しており、バイデン氏を約30%ポイント上回った。
16年と20年の大統領選挙でも、大卒未満の白人有権者からの得票率ではトランプ氏が民主党の候補を圧倒していたが、現在も当時とほぼ同水準のリードを維持している。
トランプ氏の“自滅”ない限り
共和党他候補は“二番手争い”
今回の大統領選挙では、コア支持層以外にも「トランプ支持」が広がっていることも見逃せない。同じく7月のニューヨークタイムズ紙の世論調査によれば、トランプ氏は、共和党の指名争いで、非白人で大卒未満の共和党支持者からも約60%の支持を集めている。
大卒以上に目を転じても、非白人の共和党支持者では約50%がトランプ氏を支持しており、デサンティス氏とは約40%ポイントの差がある。
相対的にはトランプ氏への支持が弱い大卒以上の白人共和党支持者ですら、40%弱がトランプ氏を支持しており、デサンティス氏に10%ポイント強の差をつけた。
1年前の22年7月に同紙が行った世論調査では、大卒以上の白人の共和党支持者からの支持率で、トランプ氏とデサンティス氏が並んでおり、トランプ氏への支持が浸透していることがわかる。
このように、共和党の予備選挙では、長年の親衛隊ともいえる白人労働者階層を超えて、トランプ氏への支持が万遍なく広がってきた。訴訟によるトラブルなどからトランプ氏が自滅しない限り、対立候補が付け入るのは難しい状況だ。
共和党の指名争いは、トランプ氏を追撃するというよりも、トランプ氏に「まさか」の事態があった場合を念頭に、緊急避難としての二番手候補の座を争う色彩が濃くなってきた。
バイデン氏、大卒以上に強い支持
アキレス腱は大卒未満の非白人有権者
一方でバイデン氏との争いでは、やや様相が違う。白人労働者階層でトランプ氏への支持が根強いのは前述の通りだが、大卒以上の有権者には支持が広がっていない。
ニューヨークタイムズ紙の世論調査では、大卒以上の有権者では、バイデン氏への支持が50%強と、トランプ氏に20%ポイント強の差がついた。20年の大統領選挙でも、大卒以上の有権者からの得票率では、16年の選挙よりトランプ氏の劣勢が強まっていたが、さらにその差が開いている。
もっとも、バイデン氏にアキレス腱がないわけではない。それは大卒未満の非白人有権者の支持だ。同紙の世論調査では、大卒未満の非白人有権者からのバイデン氏への支持がわずかながら50%を割り込んでいる。
20年の大統領選挙でバイデン氏は、大卒未満の非白人からの得票率で、トランプ氏に50%ポイントに迫る差をつけていたが、この調査では16%ポイント差まで迫られた。
トランプ氏、非白人労働階層に支持拡大
政策の恩恵少ないサービス従事者
非白人の労働者階層の支持獲得で、トランプ氏がバイデン氏に急迫している点には、違和感があるかもしれない。伝統的に非白人は民主党に好意的である上に、トランプ氏は移民に厳しい姿勢が目立ち、白人至上主義に近いとの見方すらあるからだ。
それにもかかわらずトランプ氏の支持が拡大しているのは、非白人の労働者階層の間で経済的な不満が強いことが考えられる。米国全体では失業率はかつてない低い水準だが、白人と比べて非白人は失業率が高い傾向がある。所得水準も相対的に低い。記録的なインフレはピークを越えたとはいえ、物価上昇は高止まりしており、非白人の労働者階層はインフレの影響も受けやすい。
バイデン氏は、補助金の投入などによる製造業復活への支援を実績として強調するが、サービス業に従事する比率が高い非白人には恩恵が少ないこともあるだろう。
支持拡大がどこまで持続するか?
鍵を握る「穏健」「保守」層
さらに人種問題に代表される社会的・文化的な側面では、非白人の労働者階層といっても、多様な考え方を持っている点に注意が必要だ。
ニューヨークタイムズ紙の世論調査では、非白人の労働者階層の有権者のうち、自らの考え方を民主党に近い「リベラル」としているのは2割程度にすぎず、4割が「穏健」、2割が共和党に近い「保守」と答えている。
言うまでもなく、24年大統領選でのバイデン大統領や民主党の懸念材料は、こうした「穏健」「保守」の人たちの動向だ。23年の春にアメリカン・エンタープライズ研究所などが行った世論調査によれば、非白人の労働者階層で「穏健」「保守」を自任する有権者の7割が、民主党の社会的・文化的な政策は「左傾化しすぎている」と答えている。
人種の問題ですら、過敏な反応には距離を置く傾向がある。例えば白人警官による黒人暴行事件を受けても、治安を重視する立場から警察予算の削減には批判的だ。
トランプ氏の裁判は予備選も含めた大統領選挙と並行して進みそうな雲行きだ。
裁判日程や審理の動向など刑事訴追の状況は大統領選にもさまざまな波紋や影響を及ぼすとみられる。だが底流で静かに進むトランプ支持層の広がりの持続性こそが、大統領選挙結果を大きく左右することになりそうだ。
(みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部長 安井明彦)



