「探究」を学んでも基礎知識が身に付かない!?

――入学後、一般選抜で合格した学生と総合型選抜や学校推薦型選抜の学生の成績を比べてみると、1年生の時は一般選抜の成績がいい。3~4年生になるとこれが逆転します。

河添 「SFCはそうしたデータを取っているのですか?」とよく聞かれました。私の居たころは取っていませんでした。面倒くさいし、みんなそういうことは好きじゃなかった。そもそも成績って何なんでしょう。

――取らなくても分かるし(笑)。

河添 半分の学生を学力試験の成績を主要因としないAO入試で入れたのに、入ってからそれを問うのは自己矛盾している。でも、何か良いデータはないかと考え、卒業生代表や表彰学生、ゼミのリーダーを集めてみたら、AO入試で入ってきた学生が圧倒的に多かった。これはいいデータだと思います。でも「大学での成績は」と問われるとあまり自信はないですね(笑)。

 いい点を取って大学院に進学し博士になろうという人は一生懸命勉強するでしょうし、「自分はやりたいことをやる」という人は勝手にやる。その両方のタイプがきちんと共存でき、卒業できるのがSFCです。

――SFCがうまいなと思ったのは、一般選抜と総合型選抜の比率をだいたい50:50にしたことでしょう。手間がかかった昔の京大経済学部の論文入試や前期を落ちた人が受ける東大の後期試験など、その合格人数が少ないと入った後に肩身の狭い思いをする。

河添   それはその通りです。いまは総合型選抜の比率が増えてきていると思いますが、常にいろいろと工夫をしてきました。総合型選抜が50%は多い方だと思います。ただ、総合型選抜は一定の母数がいないとダメです。「若干名」の募集だと、入ってからもマイノリティーになってしまい、自分を主張できなくなってしまう。

――SFCの半々の良さというのは、お互いにリスペクトすることにあります。一般選抜の学生は「あんなことできないよ」と思うし、総合型の学生は「あんなに勉強できないよ」と思う。

河添    一般選抜で入った学生は、総合型選抜で入った元気な学生を見て「自分もああなりたい」と思う。総合型選抜で入ったそこそこの成績の学生が堂々と自己主張するのを見て、一般選抜で入った学生は「おれはもっと勉強してきたのだから、もっと自信を持っていい」という気持ちが働けば良いのです。

――それぞれが自己肯定感を高めるようならいいと思います。

河添   そうは言ってもある程度の学力の基準というものはあります。特に基礎学力は必須です。大学院の理数系の学生は得てして英語ができない。博士論文が書けても英語の基準をクリアできず、なかなか学位が取れない院生もいました。

――この基礎知識が「探究」でもよく勘違いされます。「探究」を学んでも、基礎知識が身に付かないと思われている。

河添   それは軸が違う。基礎知識は生きていく上で必要なので、とにかく学ぶ。その上で、自分がどのような学びに適しているのかを考える。知識型の勉強が好きな人は知識を深めればいい、一方、そうした勉強よりもやりたいことがある人は「探究」的なことをがんばればいい。

――「探究」をやっていると、おのずとそのことに関しては知識が身に付いていきます。

河添  高校の進路指導の先生で一番多いパターンは、一般入試に向かない生徒には「探究」をさせて、総合型選抜を受験しなさい、と勧める。9割くらいそうでしょう。入試とは切り離して生徒一人ひとりの個性を見て、その個性を伸ばすための探究をさせなくては本当の探究にならない。まずは生徒一人ひとりの個性を見ることですね。生徒の成績から入試の結果を予想して、先生が一般選抜か総合型選抜のどちらかに振り分けてしまうからいけない。

――それが「大きなお世話」なんですね。大学にも色々なタイプがあって、それぞれ生徒に合う合わないはある。もう一つ、先生にも余裕がないからそこまで付き合いきれないということもある。僕は、指導しきれないないのならばやらなければいい、生徒に自分で考えさせればいいと思います。それをどうしたらいいのか。

(続く)