背後にある「ファンダメンタルズ」が重要
市場為替レートのアンカーの役割

 一般に金融変数は、実体経済に関連する変数に比べて変動率が大きく、また将来を見通すのが難しい。金融変数は投機によって大きく動くからだ。

 しかも円キャリーの実態については、正確な定量的情報が得られない。日本政府や日本銀行も、これらについての正確な情報は持っていないと考えられる。したがって、円キャリーに関するデータを元として将来の為替レートを予測することは難しい。

 そこで「ファンダメンタルズ」(基礎条件)の分析が重要になのだ。これは、金融変数の背後にあってそれを動かす実態経済の状況だ。株価の場合には、企業の利益動向などがファンダメンタルズとされる。

 ファンダメンタルズは、金融的要因によって動く市場価格のアンカーとしての役目を果たすと考えられる。つまり、市場価格は投機的要因によって、ファンダメンタルズで決まる価格から大きく乖離するが、長期的に見ればファンダメンタルズ価格に回帰していくと考えられる。

購買力平価は世界的な一物一価実現
「ビッグマック指数」では1ドル=84円

 では、為替レートについてのファンダメンタルズは何だろうか? つまり、市場為替レートの背後にあって、それを動かす実体経済の状況は何だろうか。

 しばしば指摘されるのは、経常収支の動向だ。最近では新NISA(少額投資非課税制度)による海外投資の増加やデジタル赤字の増大などが円安要因として指摘された。

 これらはそれ自体としては重要だ。しかし、それらが直接に為替レートに影響することはないと考えられる。

 なぜならこれらは、金利差という金融的要因によって引き起こされる円キャリー取引に比べれば、問題にならないほど規模が小さいからだ。それらが為替レートに影響するとすれば、円キャリー取引などに影響を与えることによってだと考えられる。

 為替レートについてのファンダメンタルズは、購買力平価だと考えられる。これは、世界的な一物一価を実現するような為替レートのことだ。

 仮に、あらゆる財やサービスが、ゼロのコストで、国際的に自由に取り引きされるなら、価格の違いは裁定取引によって埋められ、世界的な一物一価が実現されるからだ。移動コストが高い財やサービスでも、その生産に必要な生産要素が移動すれば、同様の状態がもたらされるだろう。

 よく知られている購買力平価として、イギリスの経済紙エコノミストが作成する「ビッグマック指数」がある。ビッグマックは、世界のどこでもほぼ同じ品質なので、価格も等しいと考えることができる。そのような価格を実現する為替レートがビッグマック指数による購買力平価だ。

 最新の推計である2024年6月を見ると、次の通りだ。ビッグマックは日本では480円、アメリカでは5.69ドルだ。これら等しくする為替レートは、1ドル84.36円だ。これが購買力平価である。

 しかし7月末の市場為替レートは150.46円だったので、市場為替レートは購買力平価に比べて43.9%も円安だということになる。

 購買力平価の半分以下とは! あまりの異常さに言葉を失う。