仮想通貨ビットコインを支える「ブロックチェーン」が、どのように世界を変えるかを解説した決定版『ブロックチェーン・レボリューション』。その出版にあわせ、同書の第1章「信頼のプロトコル」の一部を公開するシリーズの第3回。インターネットは、ブロックチェーンによって若きルーク・スカイウォーカーの精神を取り戻す。

テクノロジーが企業や政治家の嘘を暴く

 このところ、企業に対する信頼度は下がる一方だ。

 PR会社のエデルマンが毎年発表している「トラストバロメーター」によると、2015年の企業・政府機関に対する信頼度は、2008年の世界同時不況の頃と同じレベルにまで低下した。テクノロジー業界は信頼度の高い業界として知られていたが、多くの国で今回初めて信頼度が下がる結果になった。なかでもCEOや官僚に対する信頼度は最低で、学者や専門家に大きく引き離されている。

 ギャラップのアメリカ世論調査でも同様の結果が出ている。何の組織・機関が信頼できるかというランキングで「企業」は「連邦議会」に次いで2番目に低い順位となった。

 ブロックチェーン以前の世界では、それぞれの個人や組織が誠実に行動することで信頼が成り立っていた。

 といっても、相手が誠実かどうかなんて普通はわからない。だから第三者をあいだに置いて、相手が約束どおり行動することを保証してもらう。そうした仲介者に取引記録を預け、オンライン取引のロジックをまかせてしまうことも多い。仲介者となる企業(ペイパル、Visa、Uber、アップル、グーグルなど)や銀行、政府は、その過程でたっぷりと手数料を稼いでいる。

 一方、これからのブロックチェーン時代には、ネットワークが信頼を担保してくれる。あるいはネットワークに接続されたモノが、信頼できるかどうかを勝手に判断してくれる。

「電球でも心臓モニターでも、そのモノがきちんと機能しなかったり対価を払わなかったりした場合、ほかのモノたちから自動的に拒絶されるようになるんです」

 情報セキュリティ会社ワイスキーのカルロス・モレイラCEOはそう語る。ブロックチェーン上の情報がそれを可能にするのだ。

 もちろん、帳簿に記録できない信頼だってある。ビジネスの信頼すべてが自動化できるわけではない。それでも、ブロックチェーンをうまく使えば、世界は今よりずっと安全で信頼できる場所になるはずだ。

 今後ブロックチェーンで取引をする会社は、信頼度が大幅に向上するだろう。上場企業や政府の財務情報はブロックチェーンで管理するのが当たり前になるかもしれない。そうやって見通しがよくなれば、高給取りのCEOが本当に仕事をしているかどうかは一目瞭然だ。スマートコントラクト(プログラム化された契約)を使えば契約違反はほぼ不可能だし、政治家が不誠実な行動をすればすぐに国民の知るところとなる。

インターネットの帰還

 インターネットの始まりにあったのは、若きルーク・スカイウォーカーの精神だった。

 辺境の惑星からやってきた若者が悪の帝国を倒し、ドットコムの力で新たな文明を築き上げる。多くの人が、そんな無邪気な期待をインターネットに寄せていた。少数の権力者に支配された既存のビジネスをぶち壊してくれるんじゃないかと思っていたのだ。

 それまでメディアは巨大な権力にコントロールされていて、みんな黙ってその情報を受けとるしかなかった。でもインターネットという新たなメディアでは、世界中の人びとが主役だ。発言力は広く行きわたり、人びとはもはや無力な受信者ではなくアクティブな発信者になる。

 対等なコミュニケーションが世界を満たし、古くさいヒエラルキーは滅びて、どんな小さな村に住んでいてもグローバルな経済で活躍できるようになる。人の価値を決めるのは肩書きではなく、行動だ。インドでいい仕事をしていれば、その評判は世界に届く。世界はもっとフラットで、柔軟で、流動的で、実力が評価される場所になる。そしてテクノロジーは、少数の富裕層だけでなく、あらゆる人に豊かさをもたらしてくれる。

 そうなるはずだった。

 実現したこともいくつかある。ウィキペディアやリナックスのようなマス・コラボレーションが登場し、通信とアウトソーシングのおかげで途上国にいてもグローバルな経済に参加しやすくなった。いまや20億人の人がソーシャルにつながりあい、以前ならありえないようなやり方で情報にアクセスできるようになった。

 ところがやがて、帝国の逆襲が始まった。大企業や政府は、インターネットが持っていた民主的なしくみをねじ曲げ、自分たちの都合のいいようにつくり変えてしまったのだ。

 大企業や政府はインターネットの支配者となった。ネットワークのインフラ、価値ある膨大な情報、ビジネスや生活を動かすアルゴリズム、無数のアプリケーション、それに今後伸びてくる機械学習や自動運転車。シリコンバレーやウォール街や上海やソウルの限られた人たちが技術を囲い込み、それを使って莫大な富を手に入れ、経済と社会に対する影響力をますます強めていく。

 インターネットの最初期に懸念されていたダークサイドは、そのまま現実になった。

 GDPは増加しているのに、それに見合った数の雇用が生まれない。富が増えるのと同じ勢いで、格差が広がっている。オープンで公平でみんなのものだったインターネットは、壁で仕切られ、専有され、中身の見えないソフトウェアをおとなしく使うしかない世界になった。巨大なテクノロジー企業が技術を囲い込み、過剰な利益をかすめとっていく。

 その結果、富の集中と固定化はますます激しくなった。ひと握りの企業が大量のデータを所有し、それをもとにさらなるデータを手に入れ、自らの帝国を拡大している。こういう状況は、その起源はどうあれ、いまや害悪でしかない。

 アマゾン、グーグル、アップル、フェイスブックなどの肥大化したネット企業は、僕たちがこっそりしまっておきたいようなデータまで大々的に収集している。人びとのデータはいつのまにか大企業の「資産」に組み込まれ、プライバシーや個人の自由という言葉は以前のような意味を持たなくなってしまった。

 政府もダークサイドに堕ちた。いまや民主主義国の多くが、情報と通信技術を駆使して人びとを見張り、世論を操作し、自分たちに都合のいい政策を推し進め、権利と自由を踏みにじり、そうして自分たちの権力を確固たるものにしようとしている。中国やイランのような抑圧的政府にいたっては、インターネットを外の世界から隔離し、反対意見を押しつぶして国民を思い通りに操ろうとしているほどだ。

 ウェブは死んだ、と主張する人もいる。
 でも、そうとは限らない。

 ブロックチェーン技術は、こうしたネガティブな流れを押し返す新たな波だ。世界はついに本当の意味でのP2Pプラットフォームを手に入れた。これからどんどんすごいことが可能になるはずだ。

 僕たちはアイデンティティや個人情報を自分の手に取りもどせる。巨大な仲介者を通さなくても、自由に価値を創造して交換することが可能になる。お金の流れからはじき出された何十億という人たちがグローバルな経済活動に参加できる。プライバシーが守られ、自分の情報を自分で活用できるようになる。クリエイターは作品の対価を正当に受けとれる。経済格差を解消する方法は、富の再分配だけではない。小さな農家やミュージシャンにも富がきちんと分散されるしくみをつくればいいのだ。

 可能性はとどまるところを知らない。