この7月、教育の分野で圧倒的な実績を誇る2人がそれぞれ新刊を出版しました。1冊は、都立中高一貫校受験で業界トップの実績を誇るena学院長の河端真一氏による、『3万人を教えてわかった 頭のいい子は「習慣」で育つ』。もう1冊は、4人の子どもを東大理科3類に入学させ、現在は中学受験塾・浜学園のアドバイザーを務める佐藤亮子氏の『佐藤ママの子育てバイブル 三男一女東大理3合格! 学びの黄金ルール42』。新刊の発売を記念して2人による対談が実現。話題は勉強のこと、親の役割、これからの教育など多岐にわたりました。前後編2回に分けてお届けします。(取材・文/平行男、撮影/熊谷章)

自活できる社会人にするため
最低限の学力を身につけさせるのは親の仕事

子どもの学力が大きく低下している今、親子でどう乗り切るか?<佐藤ママ×河端学院長 特別対談>河端真一(かわばた・しんいち)
法学博士
慶應義塾大学経済学部卒業、一橋大学大学院博士課程修了。元一橋大学客員教授。元経済同友会幹事。 大学入学と同時に学習塾を生徒5人で開き、大学卒業時には生徒1500人を擁する大手塾に成長させる。旺文社ラジオ講座「河端の東大英語」ほか、テレビレギュラー番組2本を担当。1976年株式会社学究社を設立、85年株式上場。2016年東証一部指定。東京都最大塾に成長し、自らの授業は「2ヵ月で偏差値が20上がる」と謳われる。現在、株式会社学究社取締役会長兼社長、進学塾「ena」学院長を務める。

河端 佐藤さんの本を読むと、いちいち納得させられますし、私の本で書いたことと近い部分も多々あります。「テストで1点を上げる努力を甘く見ない」というのも共感しました。

佐藤 「子育てとはテストの点数を上げること」とシンプルに考えればいいと思っています。「人間性」とか「生きる力」とか言い出すと、何を目指していいかわからなくなる。無人島でサバイバルするわけじゃないんですから。眠たい、めんどくさい、スマホ触りたい……そこを我慢して勉強して、テストで1点でも多く点を取る。そうすることで自制心や計画性が養われるし、努力する大切さを学ぶ。点数を上げることこそが、生きる力を総合的に養う方法だと思います。

河端 生きる力というのは、私は経済的に自立する力だと思うんですよね。子どもたちはいつまでも親に頼ってはいられないわけで、いずれ自分でお金を稼がなきゃいけない。しかし、いざ社会に出たときに、漢字が書けない、基本的な計算もできないでは……。誰かに責められることはないかもしれないけど、いい仕事はもらえないでしょう。そうなって一番困るのは子ども本人です。

佐藤 私は、子どもに最終的に必要なのは「自活」と言っています。稼いで食べていける状態ということ。小学校の漢字も書けない人が、社会に出て食べていけるのかっていう話ですよ。だから受験しようがしまいが、小学校までの勉強をきちんと身につけさせるのは、最低限の親の役割だと思います。

河端 本のなかでは、お嬢様の勉強時間を確保するために、佐藤さんがお風呂で身体を洗ってあげて、髪の毛も乾かしてあげたというエピソードがありました。ああいうところが、私はすごくいいと思うんですよね。「立っているものは親でも使え」でいいんです。お互いが大変なときに手を差し伸べてあげられるというのは、親子として、あるいは人間としてのあるべき姿だと思います。

佐藤 「そこまでするんですか?」と驚く人もいますが、そこまでも何もない、どこまでも手をかければいいんです。子どもがマザコンになると心配する人もいるけど、とりあえず入りたい大学に入れさせて、万が一マザコンになったら、そのとき考えればいいって言っています。

河端 経済的自立、佐藤さんが言うところの「自活」の基盤を作ってあげなければならない。そのために親としては、子どもにどこまでも手をかける。それをやらなかったら本当に、子どもはどうなるのか。30歳になっても無職という人が世の中にたくさんいますが……。

佐藤 親は心配で死ぬこともできないですよ。一定の学力を身につけて社会に出て、きちんと自活してほしいというのが親の願いですね。