突然、告げられた進行がん。そこから、東大病院、がんセンターと渡り歩き、ほかにも多くの名医に話を聞きながら、自分に合った治療を探し求めていくがん治療ノンフィクション『ドキュメントがん治療選択』。本書の連動するこの連載では、独自の取材を重ねてがんを克服した著者の金田信一郎氏が、同じくがんを克服した各界のキーパーソンに取材。今回登場するのは、悪性リンパ腫から復活したアナウンサーの笠井信輔さん。笠井さんは、ネットの怪しい医療情報に振り回されるのは「高学歴」「高収入」の人たちだと指摘します(聞き手は金田信一郎氏)。

■笠井アナの「がん治療選択」01回目▶「笠井信輔アナ、悪性リンパ腫から復活「昭和の価値観捨てて休む勇気を」
■笠井アナの「がん治療選択」02回目▶「笠井信輔アナの“しくじり”告白!「がん罹患、なぜ備えておかなかったのか」」

笠井信輔アナ流、怪しいがん治療の見分け方「ネットで調べすぎてはダメ!」会社を辞めて独立した途端、悪性リンパ腫になったアナウンサーの笠井信輔氏。著書『生きる力 引き算の縁と足し算の縁』では当時の経験を赤裸々に語っている。

――笠井さんは、東日本大震災でも2日後に現地に取材に行かれて、いつ何が起きるか分からない現場を見続けてきました。その笠井さんをしても、自分ががんになるイメージトレーニングができていなかった。それも、血液がんは珍しいですよね。

笠井信輔氏(以下、笠井) 希少がんなんで、情報も少ないんです。私が罹患したのは「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」という長い名前のがんなんです。病名を聞くだけでも、もうダメなんじゃないかと思いますよね。それでステージ4とか言われると「もう死んじゃうのか」と思う瞬間もあるわけです。

 がんには様々な種類があって、悪性リンパ腫だけでも90種類もある。肺がんや肝臓がん、食道がんだとイメージはつきますが、自分のがんは全然イメージができませんでした。

 それで、気になってネットの検索で調べていくと、「ネットの沼」にはまってしまうんです。ネットがあることで、いろんなことが助けになるんですが、自分の病気を調べることに関しては、やっぱり、いくつかの重要なコツがあると思っています。

 ひたすら検索して調べていくと、もう生きていけないような病気なんだということを書いてあるんです。それでよくよく読み進めていくと、記事の最後に、「だからこのサプリメントを買いましょう」とか「だからこの自由診療がいいですよ」という紹介がついてくる。それも、大学の先生の監修とかで作っているというわけです。

 もちろんこうした情報だって、完全に詐欺かというと、そういうわけではなくて、一部では、そのサプリメントを飲んで症状が良くなった人もいるわけです。ただ、ごくごく一部の実例があるだけで、多くの人がそうなっているわけではない。エビデンスがないわけです。

 それでも、ネット記事の中には、まるでそれが全員に当てはまるかのように書いてある。そこでがん患者や家族はみんな気になるわけですよね。その情報には気をつけなくちゃと思いますよね。

 国立がん研究センターとか、大学病院のサイトなんかは、こういったネットの記事のようにおもしろおかしくは書いてない。

笠井信輔アナ流、怪しいがん治療の見分け方「ネットで調べすぎてはダメ!」笠井アナはブログ「笠井TIMES 人生プラマイゼロがちょうどいい」でも自身の闘病の様子を、飾らず率直に語ってきた。写真は入院中の2020年4月中旬の様子。

――そういったところは、フラットにデータや数値なども示して書いてありますよね。

笠井 そこから基本情報だけを得て、あとは先生にお願いするのがコツだと思います。結構、頭のいい人の方がたくさん検索して、ネットの沼にはまっていたりするんです。

――私の本の中にも、金の延べ棒など、高額の民間療法を受けた友人が出てきます。

笠井 私も治療が終わってから、がんの活動をやっている中で、いろんな医師にインタビューする機会があるんです。ある先生が言っていたのは、とにかく怪しげな治療法、特にエビデンスのない民間療法や食事療法に引っかかる人は、タイプが決まっているそうです。

 高学歴、高収入。この二つの人たちが、ネットの沼にはまって、高い民間療法などに手を出していく。いわゆるアグレッシブなタイプなんですね。

 普通はがんになっても、健康保険が適応されて、患者は医療費の3割とか一部だけを負担する「標準治療」を受けますよね。私もそうでした。でも、頭がよくてお金のある人は、標準よりももっと上の治療を受けてがんを治したいと思うわけです。お金があるから、先進医療や自由診療という、保険のきかない治療法も試したいと考える。

 そうした先進医療や自由診療とは、どういうものなのか。先生聞いたら、「効果と安全性が確認されていないけれど、ごく一部に効く人がいる」という、言ってみれば「一か八の薬」なんですね。そうした先進医療に何度も改良を加えて、危険性をクリアしていって、100とか200のうちの1つぐらいが標準治療薬になり、保険適用されていくわけです。

「標準治療」はお寿司で言えば「並」と感じる。この標準治療という言葉に、知識とお金のある人は、「もっといいものを受けよう」と考えてしまい、怪しげな情報に引っかかっちゃう。

 でも、お医者さんはみなさん言います。「標準治療が一番優秀な治療なんです」と。本当は「標準治療」が「特上」なのに、「標準」という言葉が良くないと私は思います。

 そういう意味では、所得の低い人ほど安全ないい医療を受けているとも言えるんです。そうした方は確実に標準治療です。特に日本は所得が低いからとって、いい加減な治療になりませんから。
(2021年7月30日公開記事に続く)