実力以上の結果を出し、人より抜きん出た存在になるには、努力と能力だけでは足りない。周囲の人の認識を自分の味方にし、だれから見ても魅力的な人物になる力「EDGE」(エッジ)を手にすることで、思いどおりの人生を歩むことができる。全米が大注目するハーバードビジネススクール教授、待望の書『ハーバードの人の心をつかむ力』から特別に一部を公開する。

実力に見あった内定を得る学生の1つの共通点とは?Photo: Adobe Stock

実力に見あった内定を得る
学生の共通点

 どうしても仕事が欲しいと思っているときに、「相手に迎合するな」という助言に従うのは難しい。だが私は、就職活動を始めた学生たちが毎年毎年、こうした不安にさいなまれるようすを目の当たりにしてきた。就職活動を始めてすぐ、就職を希望する企業から内定をもらう学生も大勢いる―が、それと同じくらいの数の学生が不採用の通知ばかりを受けとり、すっかり気落ちする。

 私はそうした学生たちのようすを何年も見守ってきた。だから、これだけはいえる。狭き門の超人気企業から内定をもらった学生と、そうした職務に実際にふさわしい学生とは、まず一致しない。

 こうした傾向があるにもかかわらず、実際に有能な学生が狭き門をくぐることに成功した例もある。そして、そうした学生には1つの共通点があった。ずば抜けて頭がよく、その職務にふさわしい能力をもっているだけではなく、彼らには相手を「楽しませる」特別な能力があったのだ―それも、本心から相手を楽しませる能力が。だからこそ、自分が聡明であり、その職務にふさわしい人材であることを証明するチャンスを得られたのだ。

 そうした学生の1人であるアントニアは、就職活動中に、まさに希望していた仕事をみつけた。ヘルスケア企業の事業開発部門のトップという職務だ。彼女はこの仕事を通じて、学び、成長したいと考えていたし、会社に貢献したいとも願っていた。ところが、いざ面接に臨んだところ、その地位に就くためにはベルギーかフランスに転勤するという条件があると知らされた。ところが彼女は、アメリカの東海岸でしか勤務することができなかった。

 面接官たちから、勤務地はベルギーかフランスでもかまいませんかと尋ねられると、彼女はすぐに「ここで柔軟性があるところを見せなければ」と判断した。ビジネススクールで「最初にイエスと言い、そのあとで交渉しなさい」と叩き込まれていたからだ。だが、その後、こう考えなおした。

 もしかすると職務と勤務地に関する私の考えを率直に話せば、逆に評価してもらえるかもしれない、と。彼女はそのときのことを、こう語っている。

「なぜ勤務地がベルギーかフランスでなければならないんですかと、尋ねたんです。だって貴社のビジネスが成長し、発展してきたのは、アメリカ市場があればこそではありませんか、と。面接官たちは最初は面食らっていましたが、だんだん私の話に引き込まれていきました。そして最後には、きみの言うとおりだと言ってくれたんです」

 会社側は、この予想もしなかった面接の展開にいたく感銘を受けた。そして彼女は貴重な人材になるだろうと即断し、その場で彼女に内定を出した。そのうえ、きみにはアメリカ東海岸を拠点として活動してもらうと約束したのである。

 同じく学生の1人、ピーターもまたその場で相手を楽しませることのパワーを申し分なく証明してみせた。そのうえ彼は自分の能力や抜け目のなさを実証すべく、みずから働きかけて状況を変える力も見せつけたのである。

 ピーターはあるプライベート・エクイティ企業〔訳注:未公開株を運用する投資会社〕から、わが社でインターンをしないかと話をもちかけられた。就職希望者に人気の高い、超有名企業だ。そこで、ぜひインターンとして働かせてくださいと応じたものの、あとになって、インターン期間中は無給であると知らされた。

 そこでピーターは共同経営者の1人に連絡し、なぜ無給なんですかと尋ねた。すると、その共同経営者はすぐにこう応じた。

「われわれはインターンに給与を支払ったことはない。インターン期間の終わりに、適任と見なした者には内定を出す。わが社の給与とボーナスは、金融機関の上位5分の1に入る高水準だ。もしきみに、インターン期間の無給に不満があるなら、きみの代わりに喜んでインターンになる候補者はいくらでもいる。これまでもインターンが定員割れをしたことはないからね」

 これに対して、ピーターはこう応じた。「タダで働く人間はクソみたいな仕事をします。だけどぼくは、クソみたいな仕事はしません。ですから、ぼくは給与を支払われるべきです」

「場を読む能力」の重要性

 私たちはある状況に置かれたとき、その場で話を聞いている人たちのようすを把握しようとするし、どうすれば会話を望む方向にもち込めるかを推測する。というのも、その場その場で状況が変わるからだ。ピーターが就職を希望していた投資会社の世界には独特の文化があった。そしてピーターはそうした文化を敏感に察し、自分が優位に立てるように利用した。彼の主張が、ほかの業界でおこなわれていたら、まったく違う結末が待っていたかもしれない。相手を楽しませる彼独自の手法が、まったく通じない場合もあるからだ。

 だが、この日、この共同経営者に関していえば、ピーターの返答を大いに楽しんだ。ピーターからそう言われたあと、彼はしばらく黙っていたが、やがて腹の底から笑いはじめた。「きみはわが社にぴったりの人材だ。きみには十分な報酬をだすよ。私が手配しておく」

 ピーターの例から学べるのは、ずうずうしく生意気な口をきくべしということではない。その日、ピーターにプラスに作用したのは、厚かましい物言いでも横柄な態度でもない―「場を読む能力」だ。彼はプライベート・エクイティ業界においては誠意が重んじられると同時に、洗練されていて、洒落た物言いが好まれることを事前に把握していた。

 だからこそ、その場で機転をきかせ、率直な気持ちを伝えて相手を喜ばせ、会話の主導権を握れたのだ。

 他人を楽しませるには、あなた自身の視点や意見が必要となる。本音を吐きながらも、大胆になる度胸が求められるのだ。意外なところを突いて相手を驚かせる肝っ玉ともいえるだろう。

 ピーターとアントニアはは人とも、相手が予想もしていない点を探しだし、そこにおかしいところがあると指摘し、相手を楽しませた。この工夫は、初心者でもベテランでも活用できる。ピーターやアントニアもまたキャリアの上ではまだ駆け出しだったが、見事に成功させたのだから。

(本原稿は『ハーバードの人の心をつかむ力』〔ローラ・ファン著、栗木さつき訳〕から抜粋、編集したものです)