世界に数多くのスーパーエリートを輩出してきたハーバード大学経営大学院(以下、ハーバード)では、さまざまな企業の事例が教材として取り上げられている。その事例は、過去の成功例であることがほとんどだ。「亀田製菓」もハーバードの教材として取り上げられている企業の一つだが、その事例は他と比べて“異色”といえる。なぜなら、亀田製菓の挑戦はまだ道半ばの状況にあるからだ――。
『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)を上梓した佐藤智恵氏が、ハーバードで亀田製菓が注目される理由を解説する。
ハーバードも注目する
亀田製菓「アメリカ進出の挑戦」
亀田製菓の事例はハーバード大学の学部生が履修するマーケティングの授業と、ハーバード大学経営大学院のエグゼクティブ講座で教えられています。亀田製菓の主力製品といえば「柿の種」。ハーバードの教材には、「柿の種」をはじめとする日本の米菓をアメリカで売り出そうと奮闘する亀田製菓の物語が書かれています。
ハーバード大学の学部生の少人数セミナーでは、教授がお菓子を学生にふるまうのが恒例になっているので、学生にとってお菓子は最も身近な製品です。ところが、当然のことながら、日本の柿の種を食べたことがある学生はほとんどいません。珍しいお菓子を試食しながら、「この製品をアメリカでヒットさせるにはどうしたらいいか」を議論していくのは、とても楽しいとの評判です。
ハーバードの教材の目的は、学生に「あなたがこの企業の経営者/管理職だったらどうするか」を深く考えさせることですから、結果的に成功した企業や製品の事例であっても、そこに至るまでに直面した課題が書かれているのが一般的です。
亀田製菓の教材を執筆したエリー・オフェク教授は、このケースが面白いのは、「まさに今も挑戦が続いていること」だと言います。成功した企業が昔、直面した課題について議論するのは、比較的簡単です。なぜならその成功方法は、メディアにたくさん掲載されているからです。ところが亀田製菓のケースは、誰も正解が分かっていない。そこにこの教材の面白みがあります。
しかも、主役は学生なら誰もが関心を持つ製品=お菓子。マーケティングの基本を学ぶ上で格好の教材となっているのです。