再び円高である。ユーロ安だから円高なのか、円高だからドル安なのかはわからない。手を叩いたとき、それは右手が鳴ったのか、左手が鳴ったのかを問う禅問答に似ている。少なくとも、1ドル=80円台の前半では、誰も円高だとは騒がなくなってしまったようだ。慣れとは恐ろしい。

 筆者はときどき「円高が進めば → 日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)は値を下げる」という錯覚を起こすことがある。円高を「 p 」、そして日経平均株価やTOPIXが値を下げることを「 q 」とした場合、「 p ならば q である( p → q )」という命題は「真である」と錯覚してしまうのである。

 錯覚を起こしてしまうのは、メディアが実に巧妙な報道をしてくれるからだ。円高により、トヨタ自動車などの輸出関連銘柄の株が売られた。続いて、日経平均株価は年初来の安値を更新した、と報道する。TOPIXに至っては、2012年6月初旬に、28年6ヵ月ぶりの安値を更新したという。

 よくよく吟味すると、賢明なるメディアは、「円高」と「日経平均株価やTOPIXの下落」の間に因果関係があるとは一言も述べていない。「 p → q 」という命題を勝手に作り、それが「真だ」と思い込んでいるのは、筆者のほうなのである。

 しかし、そう思い込みたくもなる。新聞を広げれば、株式市況と為替相場は同じページに掲載されている。NHKニュースは「今日の日経平均株価とTOPIX」を伝えた後で必ず「今日の外国為替市場」を伝える。これだけ強い関連性を見せつけられては、「円高が進めば → 日経平均株価は下落する」という命題は「真だ」と思い込んでしまうものだ。

 また、「日経平均株価が下落したから → 円高が進んだ」とはならない。ところが、これが「逆は必ずしも真ならず」の体裁を取り繕うので、先の命題がますます「真」のように思えてしまう。悔しいので、今回は筆者が勝手に思い込んでしまった命題が、「真」なのか、「偽」なのかを検証してみることにした。

為替相場と株価には、
正の相関関係がある

 次の〔図表 1〕は、横軸に円相場(対ドル円レート)、そして縦軸に日経平均株価を設定して、両者の関係を散布図で描いたものだ。基準は2012年3月期(11年4月~12年3月)である。週ベースとしているので、点の数は52個ある。