トヨタ系列サプライヤー決算に見る右往左往ぶり、トランプ関税に株主代表訴訟リスクで「泣き面に蜂」Photo:VIEW press/gettyimages

トランプ関税に対してトヨタ、ホンダ、日産ら自動車大手が生産地や調達地の変更を迫られている。また、米アップルはiPhoneを中国からインド生産に切り替えるという。各社の応急措置と今後の対策とは。トヨタ系列サプライヤーの決算が発表されたが、2026年3月期への見解がバラバラな実態も分析する。(未来調達研究所 坂口孝則)

トランプ関税に右往左往する企業
「善管注意義務」違反で株主に訴えられる?

 取引先との商談時、まるで天気の話題のように「トランプ関税」が会話のきっかけになっている。トランプ関税はそもそも実現するかも不透明だが、話のネタとしてはもってこいだ。誰もがトランプ米大統領の本音を探って、一時的な政治評論家になっている。

 もっと切迫した状況なのが、企業の決算に関わる担当者らだ。トランプ関税発表のタイミングが「最悪だった」と口をそろえ、大混乱したという。無理もない、この短期間でトランプ関税は二転三転したが、それを企業のリスクや業績見込みに勘案せねばならない。

 さらに、賃上げ(後期春闘)にも悪影響を与えたとも聞いたし、新卒の就活・採用活動にも決して良い影響は与えないだろう、とも耳にした。

 一方で先日、某有名企業のトップと話していて衝撃を受けた。トランプ関税をバカげているとは思いつつ、真面目に対応しないと「善管注意義務」違反に問われるのではないか、というのだ。

 善管注意義務とは、善良な管理者の注意義務の略。企業の取締役は、企業価値の最大化のために従業していて、価値を毀損することは許されない。

 トランプ氏は大統領選の時から関税政策を声高に叫んでいたし、第一次政権時にも同様の主張を繰り返していた。米国は巨大な市場を世界に開放し、世界は米国を搾取し続けてきた、貿易赤字は絶対悪だ――こうしたトランプ氏の考えはよく知られたところなので、二回目の大統領就任以降、高関税の発動は予測可能な展開だと解釈することもできる。

 だから、その予測に対して全くの無策は許されない、善管注意義務違反で株主から訴えられる可能性すらあるというのだ。

 なんとひどい話だろう!私たち日本人は、トランプ氏の朝令暮改に付き合う必要があるのか疑問に思っているが、株主(いわゆるモノ言う株主や外国人株主も含む)は、そうは思っていない。株主のために働かねばならない日本の上場企業の宿命とは…。

 嘆いていても仕方がないので、本題へ。筆者の専門分野でもある製造業のサプライチェーンは、トランプ関税によって多大な影響を受ける本丸だ。生産地や調達地の変更を迫られる中で、現時点で明らかになってきた各社の対策とは。トヨタ系列サプライヤーの決算が発表されたが、2026年3月期への見解がバラバラな実態も分析する。