4月22日、光市事件の差し戻し控訴審判決が出た。1審の無期懲役は棄却され、被告人の元少年には死刑が宣告された。その半年前、被告人の身元引受人を務めながら、弁護団から解任された弁護士が、あの裁判が残した教訓を語る。(聞き手:『週刊ダイヤモンド』副編集長 深澤献)

今枝仁弁護士
今枝仁(いまえだ・じん)●弁護士。1970年、山口県生まれ。高校中退後、20歳で大検取得。上智大学法学部卒業。98年、東京地裁刑事部事務官時に司法試験合格、東京地検検察官を経て弁護士。死刑存置論者。

――今枝弁護士は、「山口県光市母子殺害事件」の弁護団のなかでは異質な存在だった。

 私は「広島小一女児殺害事件(木下あいりちゃん事件)」では、被告人と毎日接見し、そのたびに記者会見を開いた。それが被告人の希望でもあったし、遺族も犯人像や事件の詳細を知りたいだろうと思ったからだ。また、警察の発表情報だけではイメージが固まっていく弊害もあった。

 私は光市事件でも積極的に情報を発信し、一般国民と共に遺族にも納得してもらえるような弁護活動を提案したが、その考え方はあの弁護団のなかで異端だったのだろう。

――そうした衝突の結果、弁護団から解任されてしまった。

 弁護団の安田好弘弁護士は、会見で「(今枝は)被告人の信頼を失ったから解任した」と語ったが、それはウソ。安田弁護士を名誉毀損で訴えようと考えているくらいだ。私は先日の判決の後も被告人に面会し、本人から「解任は自分の意思ではなかった」とはっきり確認している。更正に向けて引き続き助言を求められているし、信頼を失ってなどいない。

――光市事件では、被害者遺族の本村洋さんが積極的にマスコミに出て発言し、世論を味方につけていった。

 それに対して弁護団は、一般の人たちがどんな受け止め方をするかなど想像もせず、自分たちが正しいと思うことを主張するだけだった。それがああいう結果につながったのだ。

――裁判員制度の実施を前に、今後の裁判のあり方を問う試金石にもなったと言える。

 裁判員は被害者遺族の意見に影響を受けやすい。誰もが「自分も同じ目に遭ったら」と考えるからだ。だから最高裁は、被害者遺族の意見を裁判結果に反映させるための裁判として、この事件を選んだのだと思う。