週刊ダイヤモンド 経済誌初(!?)の「団地」の特集です。各団地の自治会長さんのお宅で窓辺の緑を眺めつつ、水羊羹やケーキをご馳走になりながらの取材は、企業の会議室が舞台となる日常の取材現場とは異なり、とても新鮮でした。

 お盆の時期にもかかわらず、快く貴重なお話をお聞かせいただきました各団地自治会の皆様方には、この場をお借りしてお礼を申し上げます。

 私は1970年代生まれ、団地が輝いていた時代に、UR(都市再生機構)のかなり大きな団地のある町で子供時代を過ごした人間です。友達はみんな団地住まいで、放課後はいつも団地に入り浸っていました。

 階段室はこどもにとって格好の遊び場で、階段室2階から地上に飛び降りる度胸試しや、「グリコ」は団地でのお決まりの遊びでした。 

 遊び疲れて部屋に戻ると、扇風機が回る和室のちゃぶ台の上には友達のお母さんが出してくれた麦茶のグラスが汗をかいている。団地の記憶は、今でも映像のようにはっきり脳裏に焼きついています。

 だからなのでしょうか。取材であの四角い建物の群れ、それに給水塔を見るたび、心の奥にずっと忘れていた柔らかい何かを突かれたようなくすぐったい感覚を、何度も感じました。

 それは私だけでもないようです。取材成果の打ち合わせを部内でしていると、「その団地は地元でも話題になっている」とか「その団地、小さい頃住んでいた」とか、特集に参加していない部員までもがやたらと打ち合わせに割り込んできます。

 現在では、民間マンションにすっかり「日本人の住まいの代名詞」の座を奪われてしまった感がありますが、それでも皆それぞれに、団地に惹かれるものがあるようなのには驚きました。

 駅からバス便なのに、エレベーターないのに、築30年なのに・・・。まさに、団地は「日本人の原風景」なのでしょう。

 一方、そんなノスタルジーをかきたてる団地は今、深刻な課題も抱えています。住民の高齢化、コミュニティの崩壊、建て替え問題・再生は容易なことではありませんが、それに果敢に挑む団地も取材しました。

 また、団地と言えば外すことのできないURの分析や、流行の“団地萌え”密着ルポ、それに今では貴重な「同潤会アパート」のグラビアをふんだんに使ったルポも掲載しております。

 今、不動産業界ではストック活用なる言葉が流行っています。住宅の新築着工件数や新築マンションの販売が落ち込むなか、中古住宅に光を当てる動きです。

 誌面でも“クルマ1台分”のコストで買える団地を購入対象としても注目、快適にリフォームする術も指南しています。

 それにしても、これだけ“隠れ団地萌え”がいるのです。そのよさを活かしつつ、団地を機能的にも現代に合った形に再生させ、団地に愛着を持つものの今は団地から離れてしまっている人たちを呼び戻し、コミュニティを再活性化させることはできないのだろうか、とふと考えてしまいました。

 この特集が微力でも、そんな動きの一助になることを願います。団地で育ち、団地で親を見送った団地世代としては――。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 鈴木洋子)